第3章 ヒペリカムの咲く庭で
「気をつけて帰ってね、ヴァイオレット」
「はい」
「…あと、これ……」
「これは…」
「手紙。ヴァイオレットへの」
「……わたしへの…てがみ……」
手紙をもらったのは、これで2度目です、とヴァイオレットがやさしく手紙を見つめる。
「それと、これも」
今朝摘んだばかりのヒペリカムをヴァイオレットに手渡す。いいのですか、と戸惑いながら受け取ってくれた。
「ヴァイオレットのおかげで、思い出したの。お母さんと、この花を植えた日のこと。悲しみは続かないのよって教えてくれた」
「……かなしみは、つづかない…」
「だから、ヴァイオレットにあげたいの。だからきっと、ヴァイオレットの悲しみも続かない」
「ありがとう、ございます………ツンベルギア」
水色でフリルのついた傘を差す、義手の自動手記人形。
彼女に救われた人は、きっとたくさんいる。
「ヴァイオレットーーーー!またねーーーー!!!」
もう小さくて、立ち止まったのか振り返ったのか分からないけど、私は彼女が無事にライデンまで帰れますようにと祈りながら、いつまでも彼女を見つめていた。