第3章 ヒペリカムの咲く庭で
「………………………」
ミオソティスが出ていった客間で、苦しい、と感じるヴァイオレット。胸元のブローチは少佐と同じ色のまま、取り込まれた光を留めて輝いている。
ミオソティスが座っていた席まで顔を上げると、その先にある暖炉の上にいくつも写真立てがあるのを見つけた。小さな枠の中で微笑む、セピア色の写真。
「………!」
ガタンッ!
タタ…タタタタ…ッ
「この方は……」
写真の中で誇らしげに、優しい瞳で夫人の方を抱いているのは、アングレカム家当主、グロリオサ・アングレカム陸軍中佐。
その人は、ギルベルト・ブーゲンビリア陸軍少佐の上官にあたり、C.H郵便社の社長であるクラウディア・ホッジング元陸軍中佐の同期だった。
「……彼女は、グロリオサ中佐の、お嬢様…」
夫人の腕の中で安らかに眠っている写真。
少し大きくなって、子供らしい笑顔を向けている写真。
どの写真にも、ミオソティスを慈しむ2人の姿が写っている。
『死んだ人間は帰ってこない』
「………っ、お嬢様……っ」
どうして泣いているのか、こういうのを何と言うのか分からないまま、ミオソティスの部屋まで駆け出した。