第3章 ヒペリカムの咲く庭で
トントントン!
「お嬢様……!」
立て続けのノックの後、ドア越しに、ヴァイオレットのくぐもった声がする。無視をしてもまたノックが鳴り、お部屋にいらっしゃるのですよね、と…。
「……どうされたの?お帰りになったんじゃなくて?」
「帰りません…!手紙を、書くまでは」
「……っ」
手紙なんか……手紙なんか!!!!!
バダン!!!
ドアを開けた瞬間、ヴァイオレットの横っ面を目掛けて平手を振り抜くと、ビタンッと音がして手が痺れた。渾身の力を込めたのに、頬を打たれたヴァイオレットは少しも動じていない。
「手紙なんか届かないって言ってるでしょ!!?父も母も死んだの!もうこの世界のどこにもいないのよ!!!!」
「届けなくていい手紙も、届かなくていい思いもありません。私はドールです。お客様の伝えたい本当の心を救いあげて、手紙を届けるのが仕事です」
「……っ、……っ…」
「私が、手紙を書きます。ツンベルギアお嬢様」
「……っ!!!………どう、して……っ」
ツンベルギア・アングレカム。
それが本当の私の名前ーーー
「お嬢様のお父様、グロリオサ・アングレカム陸軍中佐は、私の上官でした」
「……!!」
「…ギルベルト少佐の元、戦場へ従軍しておりました。グロリオサ中佐とは、その中でお会いしたのです。お嬢様の、小さい頃のお写真を大切そうに少佐へお見せながら、ツンベルギアだ、私の愛しい娘だと、笑っていらっしゃいました」
「…っ、……っ、…っ」