第2章 アストラガルスの雫
『多くを命を奪ったその手で、人を繋ぐ手紙を書くのか』
「…………てがみ」
「?」
「その手紙、見せていただけませんか?」
「………」
ヴァイオレットの申し出に、暫く手紙を見つめていた老士だったが、やがて『ロクな事は書いとらんのだが、それでもよければ』と、ヴァイオレットに手紙を渡し、代わりにコップを受け取った。
カサカサ…パサリ
ー誰かの、いつかきっとのためにー
「……っ」
たった一言、そう書いてあるだけの手紙と、瑞々しい蓮華草の絵が1輪描かれている手紙。
「不思議な手紙じゃろ?親父はこの手紙で何を言いたかったのか……」
「…とても、よい手紙だと思います」
「良い手紙?これが?」
「はい。私は今まで、たくさんの手紙を書いてきました」
「お前さん、自動手記人形《ドール》だったんか」
「はい。そして、人には言葉も態度も裏があって、それをすくい上げるのがドールの仕事だと。本当の事は、伝えなければ、分からないのです。お父様はきっと、貴方に本当の気持ちを伝えたかった」
「…………そんなもんかの…」
老士はポツリと呟いた。
「…ならわしは、生きとるべきじゃなかったんだな。誰かのいつかきっとを奪ったわしに、いつまで生きとるんだと」
「いいえ、それは違います。貴方は生きるべきなのです」
「……お前さんに何が分かる」
「分かるのです。私は……私も、たくさんの人を、この手で……、その先にいるたくさんの誰かのいつかきっとも、奪ってしまった…」
ポツ…ポツ……
「……あんた…」
「それでも私は、生きていなければいけないのです。心を……あいしてるを知りたいのです…っ」
『それは、命令ですか?』
『……っ。違う…私が君に感謝、したいんだ』