第2章 アストラガルスの雫
「………ひと、ごろし…」
「あのころは分からんかった。その意味が。若さを言い訳にしたらいかんのだろうが、わしは若かった。ただただ若すぎた。何も知らん小僧じゃった」
「………」
「肉やら野菜やらを切るのにもナイフがいる。それだって人を殺めるものになるじゃろうと思った。そんなものを作っておきながら、今さら何を言うのかと片腹痛い思いばかりが行ったり来たりするんじゃ」
「ナイフと銃では、目的が違います」
「そう。今なら親父が言いたかった事も分かるんじゃ。今なら、な。だがあの頃はそのまま家を飛び出して、大きな町の鍛冶屋で修行した。親父にそれしか無かったように、わしにもそれしかなかったんじゃ」
ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタガタガタガタ…
「おぉ、鉄橋じゃ」
窓の外に目をやると、光と影が交互にヴァイオレットと老士を出迎えている。
本当の終戦前。
和平を結ぶため遣わされた特使に、代筆するカトレアとベネディクトが同行した。別の出張代筆からの帰りに、その列車が襲撃されることを知ったヴァイオレットは、強引に列車へ乗り込んだ。
列車内での特使暗殺はヴァイオレットや護衛の大佐に阻まれて未遂に終わったものの、鉄橋を爆破する計画がある事を知る。
列車から飛び降りたヴァイオレットが鉄橋に複数仕掛けられていた爆弾を無理矢理引き剥がし、特使を乗せた列車は何事もなく無事に鉄橋を通過した。
ただ、我武者羅に引き剥がしたせいで、ヴァイオレットの義手はバラバラになってしまった。
「………」
カチャリ………