第2章 アストラガルスの雫
『……どうして』
トンカントンカン、トンカン、カンカン
『…………っ、どうして誰も使わないもんばっかり叩いてんだよ!!!』
ジューーーーー…
『現実見ろよ!!もう鍋なんか売れないし研ぎ代も取らない、材料費ばっかり嵩(かさ)んで、また明日も味のしないスープ飲まされるこっちの身にもなってみろよ!!』
『…………』
『……っ、聞いてんのかクソ親父!!!』
親父はそこで、トンカンの手を止めた。
それでも、わしに振り返ることは無かった。大きく見えていた背中も、自分が成長してみれば何のことはない、ずいぶん小さな背中じゃった。
『アンタの腕なら鍋なんか勿体ないだろ!稼げない町の鍛冶屋なんか辞めて軍の鉄砲鍛冶にー』
そこで初めて、わしに立ち向いた親父の凄まじい眼差しを見た。炉の火がそのまま瞳に宿っとるんじゃないかと思うほどの怒りが見て取れた。そして、生まれて初めて思い切り頬をぶたれた。
壁に激突して、埃やら塵やらが雪のように降り積もってきての。煙たくて煙たくてたまらんかった。頬を打たれた痛みも半端じゃない。重たい金槌を毎日毎日毎日振り上げてきた腕じゃもんで、力もその辺の男よりずっと強くてな。頭の芯まで揺れた思いがしたわい。
フラフラのまんま何とか立ち上がって、親父を睨めつけた。炉の中に押し込んでやろうか、金槌で滅多打ちにしてやろうか、色々考えた。
そん時じゃ。
燃える目のまま親父がポツリと言うた。
『お前を人殺しの息子にしたくはない』