第7章 目覚めよ、汝
「おはよう」
「……………」
昨日教室で消えてから。
蓮は1度も顔を出さなくて。
いつもうるさいくらいに纏まりつくくせに。
急に訪れた静けさになかなか寝付けずに迎えた、翌朝。
苛立つくらいの晴天がひろがっていた。
はぁ、って。
小さなため息ひとつ。
吐き出しながら家を出れば。
家の壁に凭れながら、黒髪の美少女があたしへと挨拶を交わした。
「巫、さん……」
「蓮を、知ってるの?」
「え」
「なんで知ってるの?」
疑問が確信へと変わる。
巫さんのまっすぐな視線は、あたしの明らかな動揺を引っ張り出したから。
あたしの表情ひとつで、彼女は疑問を確信へと導き出したんだ。
「…………蓮なら、いるよ」
もう、隠せない。
1度はふたり引き合わせる覚悟、決めたわけだし。
やっぱりため息ひとつ。
吐き出すように言葉も一緒に吐き出した。
「いる?」
「ずっと、あたしに憑いてる」
「憑い、て?」
「蓮」
出てきなさいよ。
大事な大事な人なんでしょ。
会いたがってた人でしょ。
会えるチャンスじゃん。
出てきて、会ってあげなさいよ。
「…………」
「………蓮?」
だけど。
蓮はいくら呼んでも姿を見せることすらしなくて。
声も。
聞こえない。
「なんで……?」
気配は、すぐ近くに感じるのに。
「………いないわよ、彼」
「え」
「いるはずないもの」
「巫さん?」
「………」
なんか、怒ってる?
「………付き合って欲しいところ、あるんだけど」
「?、うん?」
なんで?
蓮がいないって、どーゆーこと?
いるはずないって?
巫さんの背中、怒ってる。
たぶんあたしに、怒ってるんだ。
意味が全然わかんない。
何がどーなってんの、これ。