第7章 目覚めよ、汝
「………蓮」
しー、って。
人差し指を口許へ運んで。
また蓮は姿を消した。
「……ひとり?」
カタン、て。
音がして。
黒髪をなびかせて少女がひとり、入ってきた。
「巫、さん」
「日直なの。鞄とりに来ただけ」
「そっ、か。お疲れさま」
「………れん、て?」
「え?」
「誰かと、話してなかった?」
「ぇ、そ……、っかなぁ?覚えてないや」
「そう」
「………」
あなたの大事な人ならここにいるよ、って。
すぐ近くにいるよ、って。
教えてあげられないあたしはどうしようもなく性格悪い。
だって彼女はきっと蓮に気付く。
見えなくても、きっと気付いてしまう。
それを、説明できないくらいの醜い感情が、邪魔をするんだ。
「それじゃ」
「うん、バイバイ」
し、………ん
静か。
開け放たれた窓から聞こえる運動部の声。
飛行機の音。
風の音。
全部全部、煩わしくて窓を閉じた。
「………」
「最近、真白の考えが読めないんだけど」
「急に何?」
「なんで?」
「………」
いきなり消えたかと思えば。
いきなり現れて。
しかも自分の聞きたいことだけ聞くし。
「さぁ?」
「なんで?」
「知らないってば。勉強の邪魔」
「なんで教室なんかで勉強してるの?家は?」
「ぇ」
家、は。
『すごい、真白やればできるじゃん』
『薫の教え方がいいんだよ』
『これなら受験合格間違いなしだな』
『ほんと?』
『何?宿題?』
『うーん、せっかく薫早く帰って来たのになぁ』
『また家庭教師やってやろーか』
『いいの?』
『高いけどなー』
『そこはママとご相談を』
『でたよ、無責任』
『あたしお金ないもん』
『いいよ、体で払ってもらうから』
『……ぇ』
『バーカ。変な想像しちゃった?未来の奥さんはエッチだなぁ』
『か、薫のバカっ』
「………」
家、は。
あの部屋では、したくない。
今は。
「………ごめん」
「読めてるじゃん」
「いや、真白の顔見ればなんとなくわかる」
「………」
変なとこ、敏くなんないでよ。
「…………」
「真白……」
「ねぇ」
「ん」
「………してよ。ここで」