第1章 俺の子を孕(う)め
「………っ」
怖くて。
動けない。
なんなの、これ。
男の人ってこんなに威圧感あるの?
「………や!?」
ふわ、と。
指先が胸に沈んで、感触を楽しむようにふにふにと形を変える。
「すご、吸い付くね、これ」
弾力を楽しむように、確かめるように触れて。
ゆっくりと、唇がその先端を捕らえた。
「駄目……っ」
「なんで」
ぐるん、て。
咄嗟に横向きに丸くなれば。
拗ねたように不機嫌な声が耳に届く。
「やっぱり、無理……っ」
だってあたしが好きなのは、この子じゃないもん。
あたしは、薫が好きなんだもん。
「無理。子供作るなんて、無理だよ」
絶対絶対、無理。
いましがた『死んだ』、とか『生きている』、とか言われてわけわかんないし。
子供作れば生き返れる、とか意味不明な理由であったばっかの幽霊といきなりこんなことするとか。
危うく流されちゃうところだった自分が恥ずかしいけど。
こんなの全然絶対無理。
「………自分の立場、わかってんの?」
「ぇ」
「死んじゃうよ?」
「だ、だから、なんであなたとエッチ、することになるわけ。あたしの生死、あなたに関係ないんじゃ……」
「あるよ」
後ろから、首筋を舌が這う。
「あるんだよ、すっごく」
「なん、で」
反応、するなバカっ。
犬に舐められてるだけだって思えばこんなのなんともない。
なんともない、のに。
なんてエロい舌の使い方するのよこの子。
「あんたが死んだあの横断歩道、俺の管轄なんだよね」
ぐい、と。
肩を押された瞬間、視界がまわって目の前には先ほどの幽霊が成長しただろう男の人が、あたしを見下ろしていた。
「管、轄?」
「俺さ、9年前あの横断歩道で車に跳ねられたの」
「ぇ」
「それからずっと、あそこは俺の依り代」
「より……?」
「………あんたらの言葉でゆー……」
んーと、と一瞬考え込むように視線を泳がせると。
「地縛霊って、やつ」
「じ……っ!?」
なにそれなにそれっ!?
それってあの、ホラーな怖いやつ!?
ヤバいやつ!?
「だから、あんたを生かすも殺すも、俺次第ってやつ」
「………っ」
笑顔で怖いことゆーなっ!!
言葉と顔、合ってないってば!!