第6章 カレとカノジョと、僕の事情
ぎゅ、って。
硬い地面の上を指先でかきむしる。
爪から赤く血が滲むことにすら感じる嫌悪感。
痛み。
赤い血。
生きてる事実そのものが、嫌で仕方ない。
「………」
そう、だ。
『生命』。
「もし薫との間に子供が出来て、たら……」
命と引き換えに薫は………。
「それは出来ないよ、真白」
「ぇ」
「1度死んだ人間を生き返らせることは不可能なんだ。それくらい真白ならわかるでしょ?」
「…………っ」
なら。
いらない。
あたしのこの命。
「………止める。もう止める。消えたっていい。エネルギーなんていらない。このまま消えたっていい。命なんて、いらない……っ!!」
いらない。
何もかも、いらない。
「…………」
このまま崖の下に落ちたら。
今すぐ死ねるかな。
誰にも発見されることもなくて。
ひとりで冷たくなって。
確実に、死ねるかな。
薫が運転してたはずの車は。
薫が消えたと同時に跡形もなくきれいに消えた。
この場所で起きたはずの事故は、実際は何も起きてない。
全部幻とか夢物語、とか。
薫が今の今まで存在していた事実も、何もない。
現実は。
大好きな婚約者に先立たれた哀れな少女が後追い自殺を図った。
それだけ。
現実として。
事実として残るのはこれだけだ。
「真白」
ふらふらと崖へと近付くあたしの背後から。
ふわりと浮いてトン、て。
あたしの額に指先を近付けると。
「ぇ」
その瞬間。
ぐらりと視界が傾いて。
プツリと意識が、途絶えた。
「おやすみ、真白」