第6章 カレとカノジョと、僕の事情
「………うん」
いらない。
いらない。
薫のいない世界なんてあたしにはいらない……っ
だって薫は……っ
薫はあたしよりも7日早く、あの交差点で死んでしまったんだから………。
「……真白」
「お願い、連れてって薫。あたしがあの交差点にいたのは、『手違い』だって言ってた。薫でしょう?薫があたしを呼んだんでしょう?今だってあたしを、殺そうと思ったんでしょう?ねぇ、薫!!」
いいよ。
あたし、死んでもいいって、思ったんだよ。
薫と一緒なら悪くないなって。
「薫……っ」
血に染まったパーカーを握りしめて。
頭を薫の胸にくっつける。
冷たい。
あの時潜り込んだベッドはあんなに暖かかったのに。
抱き締めてもらった腕はあんなに、暖かかったのに。
「ごめんな、やっぱり出来ない」
「………」
「大好きだから、真白は連れていけない」
「薫」
「連れてきたかった。ずっと一緒にいたかった」
「あたしも、あたしもずっと一緒にいたい……っ」
「死んだら、終わりなんだ真白。死後の世界なんてない。消えるんだよ」
「いいっ、それでもいい……っ!!」
おいていかないで。
あたしを、ひとりにしないで薫。
「バイバイ、真白」
「ぃや……っ、いやだいやだっ、薫っ!!」
れいのように、浮いて。
薫の体が透明に、なってく。
「薫っ!!」
いやだ。
いやだ。
薫がいなくなるなんていやだ。
幽霊でもいいから、そばにいて。
ずっとずっと、一緒にいてよ。
薫っ。
「真白」
ふわ、って。
浮いて。
薫は耳元で小さく、囁いた。
「━━━━━━」
「ぇ」
にこ、って。
優しく笑って。
薫はあたしの前から完全に、姿を消した。