第6章 カレとカノジョと、僕の事情
「…………」
ものすごい衝撃で体が揺れて。
目の前に崖が至近距離まで迫ってた。
フロントガラスを打ち砕く音も、聞こえた。
今度こそ死んじゃうんだ。
そう、決意まで、した。
けど。
「………いつから、気付いたの?」
助手席の椅子がフラットまで倒れていて、覆い被さるように薫が、あたしを衝撃から守ってくれていた。
頭からも。
体からも、真っ赤な血が、流れる。
「………気付きたく、なかったよ」
額に流れる血液を両手で拭って。
キスをする。
「…………真白を、外に出して」
目を伏せてそう、低く声に出すと。
中学生のままの『れい』が、あたしを抱き上げて車外へと、運ぶ。
そのあとすぐに薫も車から出てきた。
「薫………」
「思いだしちゃった?」
「あたしずっと、忘れてた。ずっとずっと、大事なことなのに」
「いいんだよ真白はそれで。またあんな風に無気力になられちゃ困るだろ?」
「でも…っ、薫………」
困ったように笑って。
いつもみたいに前髪をくしゃ、って、薫の掌が、撫でた。
「だからキス、したくなかったのに」
「………っ」
あの、キスで。
戻らなかったあたしの体。
生体と生体じゃ、エネルギーは放出されない。
れいはそう、言ってた。
でも。
あたしの『生気』は、奪われた。
少しだけ残ってた、あたしの生体を保つためのエネルギー、奪われたんだ、あの瞬間。
"れいと同じ霊体"なら、どうしてエネルギーが放出されなかったのかはわからないけど。
薫があたしの前に現れる時。
いつもそばには誰もいなかった。
目が覚めた時でさえ、薫が話しかけてもお母さんは薫を見ていなかったんだ。
れいは、全部知ってた。
『気をつけて』
あれは、薫を差してた。
なんで気づかなかったんだろう。
なんで、忘れちゃったんだろう。
なんで。
「あたしをあのまま……っ、殺してくれなかったの━…!?」