第5章 頑張って我慢して?
「…………」
やる気にならない課題を机に広げたままに、ボーッと掌を、見つめてみる。
ヒラヒラ振ってみても全然透けたりなんか、しなくって。
消しゴムだってボールペンだって、ちゃんと掴める。
「………あれは、なんだったんだろう」
確かに透けてた。
鞄が掌をすり抜けた。
夢でも幻でもなくて、ちゃんと現実だった。
「真白?」
「………」
トン、て。
右手を机につきながらのぞきこむ人物。
……に。
一瞬頭が、思考が停止する。
「手、どうかしたか?さっきからノックしてんのに返事ねーし、声かけたのに」
「大丈夫か?」なんて、心配そうにさらに顔を近づけてくる、のは。
「………薫」
「うん、大丈夫?」
「………なんかちょっと、びっくりしたってゆーか」
「ノックちゃんとしたよ?」
「ごめん、課題やってた」
「……付くならもっとましな嘘つけって。ノート真っ白じゃん」
くしゃり、と。
前髪に触れながら苦笑して、薫はそのままベッドへと腰をおろした。
「………」
触れられた前髪とおでこ、熱い。
「……どーしたの?今日」
「珍しく早く終わったから。飯でも、って」
「行く!!」
薫と一緒なら、どこでも行く。
やった。
久しぶりのデート。
「でも、駄目」
「……なんで?」
「ノート真っ白じゃん。終わったらな」
「………」
ぅぅ……。
なんで真面目にやらなかったの、あたし。
そしてなんでそんなに優等生なの、薫さんてば。
「死ぬ気で頑張れよ。待ってるから」
ちゅ、て。
髪の毛にキスをひとつ。
薫はドアの向こうに消えてった。
「…………」
やばい。
カッコいい。
好き。
すごい好き。
なんなのあの色気は。
産まれながらに授かった才能?
あたしこれからずっとあんな人と暮らすの?
心臓、持つかな。
………それより今は、こっち。
課題なんて、即効終わらせてやるんだから!!