第1章 俺の子を孕(う)め
「手違い?」
「ええ」
「……っゆーと、なに?あたし、死んでないの?」
「半分正解で、半分外れ」
「は?」
「キミは今日、間違いなくトラックに跳ねられた」
「………」
恐ろしいことをさらっと言ったな、この少年。
「ですが、まだ『死』は確定してない」
「どーゆーこと?」
「今日この場所に、キミは『いないはずだった』」
「?」
「何らかの原因で未来が変わり、結果、キミは死んだ」
死んだ死んだ連呼されるのも、気分悪いわね。
「意味が、わからないんだけど」
「つまり、キミは今日の死亡予定者のリストに乗ってない」
「?」
「だから、まだ『生きている』」
「━━━━嘘っ」
生きている。
そう言われてつい、目の前の自分よりも背丈の低い少年につかみかかってしまったあたしの心境も、理解して欲しい。
胸ぐらを掴むあたしの両腕を引き剥がしながら、睨まれることでもないと思うのよ。
「嘘じゃない」
自分の襟元を払いながら、明らかに不機嫌な声。
いくら年下でも、ここでは彼が上。
仕方なく「ごめんなさい」と小さく謝れば。
また先ほどの笑顔を称えてあたしへと向き直ってくれた。
意外とチョロいわねこの子。
見たところ中学生、くらいかしら。
まあきっと、今時のガキんちょはこんなものかしらね。
「キミは『まだ』生きている」
「まだ?」
「そう、まだ。このままでは死んでしまう」
「はぁ?」
話が違うじゃないっ
「『生命』を、作ればいい」
「?」
「生命は莫大なエネルギーになる。生命をくれたら、なんでも願いを叶えてあげるよ」
「………言ってる意味が、わかりませんが」
「僕の子を孕んでくれたら、なんでも願い叶えてあげる」
「・・・・」
ん?
今なんか、幻聴が。
「なんて?」
「俺の子を宿せ、と言った」
「………--……はぁああ??」