第8章 約束
ああ、そうだ。
『蓮』。
なんで忘れてたんだろう。
なんで思いだなさかったんだろう。
なんで。
なんで、忘れることが出来たんだろう。
「れ、ん」
「うん」
記憶の中の蓮よりも幾分大人びて。
身長も、おっきくて。
声だってなんだか低いような気がする。
「ずっと毎日、待ってたんだ、真白」
「あ……」
『約束』。
そうだ、あたし………っ
「ご、めんあたし……っ」
「なんてね」
「え」
「ごめん、実は俺も、昨日、思い出した」
「……え」
「尊が、結婚するんだよ」
「は、ぁ、え?」
「来月」
「あ、おめで、とう?」
「それでね、話してくれたの。真白のこと」
「え」
「ご丁寧に卒アルご持参で」
「━━━━━ッッ」
確かに、巫さんと仲良くなかったし。
写真、ないかもしれないけど!!
蓮もなんかちょっと、笑いすぎてない?
「び、ええええーん!!」
「ああ、ごめん。びっくりさせちゃったかな」
「眠いのかも。ちょっとかして」
薫を腕の中へと抱き止めて。
背中をトントン、揺すってやれば。
とろん、と眠そうに瞼がくっついた。
「………す、げー。母親みたい」
「母親だもん」
「ああ、そうだね、ごめんね、全部ひとりで」
「ママたちが協力してくれたから」
「………そっか」
「うん」
ザー、って。
木々が揺れる。
風が、肌を掠める。
「蓮」
「ん?」
「『おかえり』」
「━━━━━うん、『ただいま』」