第8章 約束
━━━━━あれから、2年。
『薫』、は。
ようやくよちよち歩きが出来るようになった。
産まれた子供は女の子で。
『薫』と、名付けた。
「薫、いい天気だねー、少しお散歩しよっか」
あれから。
少しだけ思い出したことがある。
あたし。
夢を見てた。
夢。
でもたぶん、現実。
不思議な、夢。
夢の中で薫じゃない誰かを好きになった。
好きになった、けど。
ぼんやりとしか思い出せなくて。
誰なのか、とか。
どこにいるのか、とか。
全然思い出せないんだ。
「ご機嫌だね今日は。気持ちいい?」
肌にあたる風が、あったかい。
そろそろ春がくる。
桜が、咲き始める頃だ。
「薫、砂の上は危ないよ」
てとてとと、頼りなげに歩く我が子を追いかけて。
ピタリと。
薫の動きが、止まった。
「?」
「かわいいね、薫ちゃん、てゆーの?」
「━━━━━━え」
薫が動きを止めた原因の、彼は。
膝を折り視線を最大限薫に合わせると。
そのまま視線は後ろにいたあたし、へと向けられた。
「迎えに来たよ、真白」
「あ………」
「真白」
薫を、抱き上げて。
『彼』、は。
あたしをまっすぐに見つめ………た。
「━━━━━━━れんっ」