第8章 約束
「心臓、動いてるのわかる?」
「……良くわからない」
後日行ったエコーで、胎嚢と、心臓が確認出来た。
説明されても正直、小さな袋、としか認識出来ない。
でもそっか。
こんな小さいのが、赤ちゃんになるんだ。
「お家の人と良く話し合って、どうするか決めてきてね」
『どうするか』。
「………先生」
「ん?」
「あたしの妊娠は、望まれないものなのかな?」
「え?」
「おめでた、って、あたしの妊娠は言わないですよね」
喜ばれる命と。
疎まれる命。
「何が違うのかな」
「━━━━━━ーーお母さんが懸念してるのは、その行為じゃないかな」
「行為?」
「まだまだ責任が取れる時じゃないでしょう?お相手の方はなんて言ってるの?無責任に子供を産んで、やっぱり育てられない、なんて道理は通用しないの」
「……」
「命。重いのよ?いい加減な気持ちで作られた赤ちゃんを、おめでとうなんて誰も言えないわ」
「………」
いい加減………?
「良く、考えてきて」
いい加減。
責任。
お腹にそっと手をあててみるけど、当たり前だけどなんにも感じない。
「………」
誰の、子供だろう。
薫じゃない。
わからないけど、何故かそう、思う。
誰の子かもわからない。
うん。
確かにこれじゃいい加減だ。
責任云々の前に、こんなの喜ばれるはずないじゃん。
でも。
だけど。
不思議と産まない選択肢が出てこないのは、なんでだろう。