第2章 merry you
次の手だ。
俺は今まで素気無く断っていたモブ女達の食事の誘いに乗るようになった。
もちろん凛には「仕事で遅くなる」なんてしゃあしゃあと嘘の報告を入れて、だ。
パパラッチたちは目の前に餌をぶら下げられたハイエナのように写真を撮りまくり、ワイドショーでも俺の熱愛に関する話題が取り沙汰されるようになった。
流石にアホみてぇに鈍い凛でも、俺が嘘をついて女と食事に行ったことには気づいただろう。
そわそわしながら家に帰ったが、なんてことはない。
凛は凛だった。
ノートパソコンに加えiPadが増えていた。死ね。
その後もあの手この手で凛の嫉妬を引き出そうとしたが、凛変わらず俺の熱愛報道を目を輝かせてノートパソコンを叩くだけだった。
こちらを見もしないその態度に、胸に渦巻いていた罪悪感も吹き飛んだ。
ふざけんな。
どうでもいいモブ女と腕組んで歩いて、キスまでした結果がそれかよ。馬鹿みてぇじゃねーか。ふざけんな。
「テメェが好きだって言ったんだろうが」
高校以来の再開を果たした日、任務を終え撤収作業が進むビルの跡地、必然的に離れ離れになるはずだった。
あの日、凛が立ち去る俺を引き止め、あんなことを言わなければ。
——好きだよかっちゃん。
——ずっと好きだったの。
——出来れば貴方と一緒に居たかった。
大きな漆黒の瞳に涙さえ浮かべて、懇願するような告白に、柄にもなく胸が震えた。
別に俺は、凛ことなんざなんとも思っていないが、昔のように縋られるのは心地よく、小刻みに震える凛の顔を掴んで噛み付くように口付けて、俺と凛は恋人同士になった。
はずなのに。
「…アホくせ」
有名女優、アイドル、モデル…様々な名の売れた美女と関係を持ったが、今では幾人かと惰性的に関係を続けているだけだ。
凛は変わらない。
浮気を公認されている今の状態は果たして恋人と呼べるのか。
深いため息をついて、俺はもはやルーチンワークと化した浮気相手への誘いの連絡を入れようとして…やめた。
無性に、凛の顔が見たくなった。