第1章 理想のペアとさつきたち
遠赤外線のセキュリティーセンサーのある廊下まで来たところで、理想のペアは案内を一旦ストップします。
「これ以上、進まない方がいいな」
と、言った丸井に木手は頷き、
「ええ、どこか遠赤外線に触れるとブザーが鳴って大騒ぎになってしまいます」
メガネの縁を片手で持ち上げていました。
「何だ、落ち武者の幽霊いないのか」
そう言いながらホッとした表情のハジメです。
「だから、単なる噂だって。落ち武者の幽霊なんていない、いない」
と、丸井は軽い調子でしたが、周りが突然騒ぎ出します。壁に大きな影が現れたからです。
「キャー!」
さつきが悲鳴をあげ、桃子の腕にしがみつき、
「お、落ち武者の幽霊……」
桃子も大きな影に怯えます。
「………」
ハジメはさつきと桃子を守ろうと前に出ました。
「木手」
「はい」
丸井と木手はテニスラケットを構えます。
「いや、あれは落ち武者の幽霊じゃないかもしれないぞ」
大きな影の方を睨んで言ったハジメです。
「まさか、闇目なの……」
震えながらさつきがハジメの服の裾を引っ張ります。一瞬、驚いたハジメはさつきを見て頷きます。