第13章 虹色の縁(えにし)
城下を抜けようとしたその時だった。
『おひめさまっ!』
光秀さんの後ろから小さな声が聞こえた。
隊列が止まり、光秀さんが振り返った。
「あれ、…あの子。」
五~六歳くらいの男の子だった。
後ろには、その子のお母さんらしき女の人が頭を下げている。
『知り合いか?』
「うーん、。…あっ!ほら、私が暴れた馬から助けた子じゃないですか?」
『そうだったか。』
「きっとそうですよ!」
『…降りるか?』
右隣に付いていた政宗が声をかけた。
「え、いいの?」
『降りたいって顔に書いてる。』
政宗が馬からおりて手を伸ばす。
私は信長様に支えられながら、政宗の腕の中に降りた。
他の皆も馬から降りて男の子を見ている。
隣に信長様、真後ろに政宗が付いて、私は男の子の側へ向かった。
『このまえは、たすけていただいてありがとうございました。』
体全体でお辞儀をするのが可愛らしくて、つい笑ってしまう。
「元気そうだね。」
『あかちゃん、おめでとうございます。』
「ありがとう。」
『これ、おまもり…』
「おまもり?」
男の子は、私に握りしめた拳を向けた。両手でそれを受けとる。
綺麗な貝殻のようなキラキラした石だった。
『おれ、きれいないしをさがしてたからものにしてるんだ。
そのなかの、いまあるなかで、いちばんきれいないし。
きらきらしてるから、きっとまもってくれる。』
「わぁ、ほんとだねぇ。きれい。」
空に向かって石をかざすと、陽の光で虹色に輝いた。
「ありがとう、大切にします。頑張って赤ちゃん産むね。」
『うんっ!』
『その節は本当にありがとうございました。ご懐妊おめでとうございます。』
静かに駆け寄った男の子のお母さんが、地べたに座り手を付いた。
「そんなっ、立ってください!ねぇっ、信長様!」
『子供。』
「は、はい…」
信長様の低い声に、小さな体がびくついた。
『名は?』
『…てるまさ』
『輝真と申します。』
『輝真。お前、父は?』
砂利を踏みながら政宗が私の隣に立った。
『とうちゃんは…』
『輝真の父は、流行り病で去年…死にました。今は、私が稼ぎに出て細々とではありますが二人で暮らしています。』
『そうか…、母上をしっかり支えるんだぞっ。』
くしゃっと政宗が輝真くんの頭を撫でた。