第2章 ふたりでひとつ
『貴様が単純だからだ。』
かりかりと、戦利品の金平糖をかじりながら信長様は笑っていた。
「単純って!」
『俺が外れの手をちらっと見た時、貴様の鼻が動く。』
「んっ!」
私は咄嗟に鼻を隠した。
『まだ、やるのか? 戦利品の金平糖もいいが、貴様の膝もほしい。』
「次が最後で、…私は目を瞑ります!
どーっちだ?」
サァッ
ひんやりとした風が吹いた。髪が風に遊ばれて揺れるのがわかる。二回ともすぐに答えを言う信長様が、いつまでも静かで。
あれ?って思って、薄目を開けた。
ーーっ!
目の前には口付け寸前の距離の信長様。
チュッ
わざと、音を立てるような口付けをすれば、自然に吐息が混じり合う。
私の左手の中の金平糖を、信長様は意図も容易く取り出して口に加えた。
私が信長様の首に腕を回せば、それが合図のように、時間も場所も関係なく、甘やかされる。
寒さなど忘れるほどに、熱く甘く、優しく溶け合う。
※
「もぉ、秀吉さんに叱られますよ?」
『黙っていれば良い。』
乱れた私の髪を結い直す信長様は、チュッと私の首筋に痕を残した。
『この痕を見たら、叱られるな。』
「もぉ!」
チュッ
私も、仕返しに信長様の首筋に口付けて痕を残す。
『…貴様。』
「くすぐったかったですか?お揃いになりましたね。」
信長様の首筋に付いたすぐに消えそうな小さな痕を、つっとなぞると、信長様は怒ったように私を見た。
『一度でなく、二度までも。…仕置きが必要だな。』
「えぇっ!」
私が急いで離れようとするけれど、力では負けてしまうのは当たり前で。
すとん、と信長様の胸に体がもたれた。
とくとくとく
血の廻る音がする。
見上げれば、紅の瞳に射ぬかれた。
『愛している、以上の言葉が欲しいな。』
「…え?」
『愛している、だけでは足りん。俺の全てが貴様のもので、貴様の全ては俺のもの。この体も、この吐息も、熱も、欲望も。』
「ふたりで…ひとつ。」
『ふたりで、ひとつ?』
『補い支えあい、分け与え満たし合う。
信長様の未来は、私の未来。
私と信長様は、一心同体、ですね。』
『一心同体、か。いい響きだ。貴様と俺は一心同体。
永遠に。』
ゆっくりと唇が触れ合う。
私の魂も体も信長様に吸い込まれるようだった。