第2章 ふたりでひとつ
「もう夕暮れですね。」
夕闇に染まり始めると、風も冷たくなる。
ふんわりと香る信長様の匂いで、羽織をかけてくれたのがわかった。
『夕げの後の甘味に、土産を買うのであろう?』
「あ、そうだった!」
『無くても良いがな。』
「そんなことないですよ!皆待ってるから!」
『では行くか。小物屋も寄ろう。』
「え?」
『久しぶりの逢瀬の記念に、ぷれぜんとを選んでやろう。』
「この前の視察のお土産でたくさん頂きましたよ?」
『ぷれぜんとだ。』
信長様は、ずるい。
優しく頬を撫でて、覗き込むように私を見れば、嫌だなんて言えないのに。
私の頭の中は、信長様でいつも一杯。
愛しい唯一無二の人。
※
それから甘味屋でお土産を買って、小物屋で簪を選んでもらった。
『全てもらう。』なんて信長様が言うから、慌てて止めて、そうしたら困った顔をして。
その顔が可愛くて笑ってしまった。
見かねた店主さんが、小さな花の形の鈴の付いた簪を差し出してくれてた。
信長様が結い上げた髪にさすと、チリチリと音がなる。
『これで、貴様を見失うことはないな。』
そう言うと、明らかに多いだろう代金を置いて歩き出した。
『こ、こんなには頂けません!』
『我が奥に合う簪を選んだ褒美よ。』
『あ、有り難き…』
何度も頭を下げる店主さんに私も手を降って、信長様が跨がった愛馬に乗る。
揺られればその度にチリチリと鳴る鈴の音色に、にやけてしまって、ふいに信長様を見上げると、信長様も微笑んでいた。
『あやつらは、いつか必ずやってくる。』
「…!」
『焦るな。巡り合わせを待つのも一興。貴様と二人の時間を楽しいことも悪くはない。』
不意をつかれた言葉に、景色が滲む。
信長様の胸に顔を埋めると、優しい手が頭にのる。
『…今宵は寝かせぬ。』
ん?
「さ、先ほど…」
『忘れた。』
「えぇっ!」
もうすぐ城門が見える。もう、夕闇に月が出ていた。
『はぁ。』
「…どうかしましたか?」
『見ろ。』
「あ。」
城門に見えるのは、仁王立ちの秀吉さん。
『あやつの小言は聞き飽きたな。裏口に回るか。』
「え?」
『、捕まれ。少し駆けるぞ。』