第2章 ふたりでひとつ
『おっ、御館様!』
足早に私の手を引く信長様。
背中から聞こえる秀吉さんの声。
私は、ようやく訪れた、ほんの少しの平穏を噛み締めていた。
※
三成くんに見送られて、信長様の愛馬に乗り城下の終わりまでやって来た。
『甘味はいるか?』
「遅い朝げでしたからね。帰り道にお土産買うだけにしましょうか?」
『…では、これを食べるか。』
信長様は、懐から金平糖の瓶を見せた。
「あぁっ!どこから?」
『光秀の忍びが寄越した。』
「ふふっ。さすがぁ…。」
『では、行くか!』
「はい!」
信長様は、私の腰に手を回しながら横抱きで支えて、丁度いい速度で愛馬を走らせていく。
触れ合う肌から感じる暖かさが、肌寒い季節の風を忘れさせてくれるようだった。
次第に、いつもの丘が見えてきた。
楽しいことも、泣きたくなるような辛いことも、この丘で過ごした大切な場所。
先に降りた信長様に、抱き付くように私が馬から降りれば、すぐに口付けの嵐が始まる。
息が出来ないくらいの口付けに、溶かされる。
『…っ、ふっ。戯れし過ぎずなど、無理なことよ。』
「はっ、はっ。信長、様。」
合図や言葉など、もういらない。
お互いが隙間を求めて埋める、それだけだった。
『…忙しかった日々、よく耐えてくれた。』
「私は…、信長様の目指す未来を共に見たいのです。
お忙しいのは仕方のない事です。」
『物分かりが良すぎるぞ?』
「…じゃあ、今日はここで沢山我が儘言います!」
『あぁ、望むところだ。…して、何をする?』
「…腰かけて金平糖食べましょうか?」
『腰掛けず、膝枕だ。』
「えぇっ!」
信長様と私は手を繋いで歩く。
同じ歩幅で、並びながら。
「金平糖の瓶を貸してください。」
『何故だ?』
「勝負をしましょう。」
『は?』
「私の手にある金平糖。どちらの手に隠れているか当てられたら、膝枕してさしあげます。」
『ほう。』
「じゃあ、いきますよぉ。」
現代にいた時に友達と遊んだ、手の中に隠したものがどちらの手にあるかを当てる遊び。
まさか、戦後時代で愛する人とやるとは思わなかったな。
「どーっちだ?」
『…右。』
「…当たり。もう一回!
どーっちだ?」
『右。』
「んぁあっ!」
『当たりだな。』
「…なんでぇ?武将だから?」