第12章 限られた時間
『家康様と信長様、ですか?』
「なんか本当の兄弟みたいで…」
その時、目の前の襖が勢い良く開いて不機嫌な家康が顔を出した。
『立ち聞きなんて、またくだらないこと。』
「あっ、ごめん。」
『政宗さんと秀吉さんに落ち着いたこと、話してくる。』
「み、三成くんにもね?」
『気が向いたらね。』
パタパタと黄色の羽織を翻し優しい天の邪鬼は廊下を歩いていった。
『。』
「はい。」
私はその姿を見送って部屋にはいった。
家康の目元が、少しだけ赤かったのは見なかったことにした。
※
それから、お酒以外は食事も摂れるようになった信長様は寝起きを天守に戻して、いつもの政務も少しずつやり始めた。
私も付いていくように天守に移って、少しだけ離れた場所で産着を縫っている。
「あっ!」
『なんだ?』
「今、動きました。」
『なにっ!?』
慌てて立ち上がる信長様が文机を揺らして、筆が転がるのを慌てて拾う秀吉さんが見えた。
『どこだ?』
「ここです、ここ。」
動いた辺りに手を添える。
「…あれぇ? お父様よ?ねぇ。ねぇ!」
『何故、俺が触ると動かんのだ。』
最近のお決まりのような会話。
「怖い顔、だからなんじゃないですか?」
『ぷっ。』
『秀吉!貴様っ。』
『失礼を。』
「貴方のお父様は優しいのよ。本当は、誰よりも。そして誰よりも強くて…」
ぽこっ
『「あっ。」』
応えるような胎動。
『全ての厄災から守ってやる。安心するがよい。』
深紅の瞳は優しくて、その瞳に射ぬかれれば、私の鼓動は跳ね上がる。
お腹に手を当て合いながら触れる口付けが深みを増そうとする。
『んっ、うん!』
『おやおや。』
秀吉さんの大きな咳払いと、悪戯まじりの声が聞こえて現実に引き戻された。
『光秀!いつ帰ってきた?またお前は、知らぬ間にふらっと…』
『昨日の夜だな。ご報告と快気祝いを少々。』
『ほう。聞こう。』
光秀さんが天守に入ると、信長様は、ぽんと私のお腹を撫でて文机に戻っていった。
コトリ。
『快気祝いでございます。』
『あ、おい!それっ!』
文机に静かに置いた光秀さんの快気祝いは、きらきら光る色とりどりの金平糖。