第12章 限られた時間
一進一退、信長様の体調はそんな言葉がぴったりだった。
熱の上がりが緩やかになって、一言二言なら会話も成り立つようになった。
『たぶん、徐々に熱は収まるだろうし、矢傷の化膿も少なかった。…あとはこの人の体力だけだけど。まぁ、心配えらないんじゃない?』
「じゃあ、…?」
『少しずつ元に戻って、すぐ政務をやり始めるでしょ。次眼が覚めたら教えて。政宗さんが作った粥と薬飲んでもらうから。』
「わかった。」
『…あんたは?』
「え?」
『ずっと付きっきりでしょ?休めてる?』
「あ、咲がね。褥を信長様の隣に敷いてくれるから、眠れてるよ。お腹も痛くないし出血もないし。赤ちゃんの動いてる感じも、前よりはっきりわかるようになってきた。」
『そう。顔色いいし、ようやく落ち着いたかな。でも、無理はしないで。』
「うん。わかってる。」
優しく頷くと、家康は襖を静かに開け部屋を出た。
『…た、竹千代。』
「えっ、い、家康っ!」
スパン
『俺、…呼ばれた?』
『竹千代。』
『…はい。ここに。』
『…恩に着る。』
『…っ。貸しですからね。』
偉大な兄の弱った姿を受け入れた、優しくて強い弟。
そしてやっぱり強くて偉大な兄。
ふたりの絆が手に取るようにわかって、知らず知らずに笑っていた。
『。』
「はい。お体は?」
『だいぶいい。心配をかけたな。』
「何か召し上がりましょうか。あ、体を拭いて着替えも。
咲、さくっ!」
私は目立ってきたお腹を支えながら立ち上がって、部屋を出た。
『政宗さんが粥を作ってます。秀吉さんが、山積みの政務でやつれてます。』
『そうか。』
『三成は知らないけど、光秀さんは、今回の一件で治める者が変わった領地の視察に行きました。』
『そうか。
…俺はを殺そうとしたか?』
『…。
…さぁ? あんたの悪夢の話しなんて、さっぱりわかりませんね。』
『ふっ。そうか。』
『食べて薬飲んで、早く復帰してください。皆も待ってますから。』
『薬は、…いらん。』
『はぁ。…口直しの金平糖つけますから。』
『…10粒だ。』
『多すぎ。』
『様、入られないのですか?』
湯を張った桶を持った咲が背中から声をかける。
「しーっ。もうちょっと聞いてたいの。」