第2章 ふたりでひとつ
『んっ、んんっ!御館様…。』
『直ぐに行く。』
「朝げをしながらの軍議なら、私はここで食べます。
お邪魔だろうし…。」
『そんな事はないぞ。、みんなお前を待ってる。』
「え、そう?」
『ゆっくり惚けた顔を直し、支度をしてこい。』
『んんっ!』
秀吉さんの二回目の咳払いと同時に、信長様が襖を開けた。
膝まづく秀吉さんと目が合いそうになって、急いで私は背を向ける。
『先に向かう。』
「はい。」
二人分の足音が次第に離れていくのを感じながら、私は布団に顔を埋めて、少し前までの余韻に浸るのだった。
※※
信長様と私が、少し遅い朝げを摂りながら進んでいく軍議は、光秀さんの他国の近況報告、三成くんの西の制圧に向けての軍備報告とテンポよく続いてあっさりと終わり…
その後に始まった秀吉さんからの、遠乗り注意事項という名の終わりの見えないお話が、今もまだ続いている。
『一国の城主であり、天下に最も近いお立場であることをご理解頂き…』
『はぁ。…秀吉。その話は先ほども聞いた。』
「ふふっ。」
『誰がどこで見ているかわかりませぬ。あまり御戯れし過ぎずに…』
『それも…』
「さっき聞きました。ふふっ。」
『秀吉、もういいではないか? 俺は飽きたぞ?』
『光秀!…御館様と奥方が護衛をつけずに遠乗りだぞ?』
『…護衛をつけずに、は表向きだ。奥方であるの護衛は俺の忍びがつく。』
『そ、そうなのか?』
『光秀、初耳だぞ?』
『せっかくの逢瀬の邪魔はいたしませぬ。多少距離を持つよう指示しております故、お好きなように。』
『ふっ、ならば良い。』
『おっ、お好きなようにって!それでは…』
秀吉さんの視線が光秀さんに向かった。
『久しぶりの逢瀬だ。邪魔をするな。』
『だっ、だが…』
秀吉さんの背中から、ちらりと見えた光秀さんの視線が信長様と合う。
信長様が、くくっと笑うと勢いよく立ち上がった。
『あっ、信長様!まだ話は、終わっておりませぬ!』
『聞き飽きた。』
「…き、気を付けて行ってくるから。」
『はい、お気をつけて。お見送り致します。』
『み、三成!お前!』
『光秀。』
『はっ。』
『足止め、ご苦労。』
『はっ。』
「お土産、買ってくるからね!」