第11章 たとえば 私が
「全ては怖い夢のせい。
弱く迷う貴方を引き出したのは、怖い夢のせい。」
『音がする。』
「え?」
『の生きている音がする。』
「私は、貴方の側におります。
たとえば、貴方に危険が及ぶなら私が楯になりましょう。
この心臓の音を止めるのが貴方なら、私はそれでも構わない。
だって、愛しているから。」
『っ。ー!』
いつのまにか喉もとに当てられた手は離れ、腰に回されていた。
きつく強ばった声色は、いつもの柔らかな声色に変わっていた。
「さぁ。怖い夢を終わらせましょう。家康の薬湯を飲ませて差し上げます。」
ちらりと家康の方を向くと、家康は頷いて用意していた薬湯を私の側に運んでくれた。
「疲れましたね。まだ矢傷も熱も下がっていませんよ。
お側におります。片時も離れずに、必ず。
…飲めますか?」
信長様の口元に茶碗を近付ける。
いつ見ても苦そうな、深緑の家康の薬湯。
信長様は半分だけ口に含んだ。
ごくっ
飲み込んだかと思うと私の胸に顔を埋める。
『全部飲まなきゃ、駄目だ…』
あぁ、苦そう。
「信長様。」
私は、残り半分を口に含むと、信長様へ口付けた。
ごくっ
すごく苦い。家康…、この世のものでちゃんと作った?
そう思いながら、唇を離すと柔らかな深紅の瞳と眼が合った。
「大丈夫。だいじょうぶ、眠ってしまっても眼が覚めたら、必ずお側におります。
私は貴方と一心同体。ふたりでひとつ。」
『あぁ。、皆…。すま、な、い。』
ぐっと、体にかかる重さが増えて、後ろに倒れかかった。
すぐに政宗と光秀さんが支えてくれて倒れることはなかったけれど、政宗も光秀さんも、家康も、離れて立っている秀吉さんや三成くんも辛そうな顔をしていた。
大将の弱った姿を見るのは、辛いのかもしれない。
「信長様も、同じ人間なんだよね。」
『あぁ。そうだね。』
ふっと笑ったのは家康だった。
『俺は、このくらい人間味がある方が好きだな。』
『そうだな。この方だから、俺は付いてきた。』
政宗と光秀さんの声がした。
『眠られたのか?』
「うん。たぶん。」
『そうか。三成、お運びするぞ。』
『三成、出来るの?襖何枚あっても足りなくならない?』
『ご心配、ありがとうございます!』