第11章 たとえば 私が
炎の様な美しい深紅の瞳、ではなかった。
濁ったような虚ろな瞳。
何の感情も持ち合わせていないようで、背筋がぞくりとした。
『貴様、…本当にか?』
「えっ?… そう、ですよ。」
『…わからん。』
「…。」
『駄目だっ。あの時みたいに何かあってからじゃ遅い!早く引き離して部屋にっ…!』
「何が、わからないの?」
『の声が聞こえるのに、の姿が上手く見えない。俺には眩しすぎて…
手を掴みたいのに振り払ってしまいそうだ。
抱き締めたいのにっ…
この手で…、殺してしまいそうだ。』
『『…っ!』』
その場にいた全員が信長様の言葉に、時が止まったように動けない。
私は… 信長様の心の闇が見えた気がした。
どんなに強い志を持っても、暗い部分は必ずあって、それが幻覚や熱や毒で、わからないけどきっと引き出されてる。
こんな弱い姿も、私の愛する人だから。
ドタッ
信長様が私の両肩に手を置きながら座り込んだ。
脱力した信長様の重味で倒れこみそうになる。
ガシッ
『大丈夫か?』
「光秀さん、大丈夫です。ありがとう。」
背後に控えている政宗と光秀さんの距離が近くなったのがわかった。
ぐっ…
家康が巻いた首もとのさらしに合わせるように、信長様の手がかけられる。
『っ!』
秀吉さんが目を見開いて叫んだ。
「信長様。」
『はぁっ、はぁっ。なのか?
俺は、おれはっ、今… 何をしている?
俺は 強くなければならん。何よりも、誰よりも。
前を向いて、芯を揺らげずに…
なのに、俺は皆を巻き込んでっ。
俺は、おれはぁっ、貴様が見えなくて…』
ぐっと、咄嗟に私は信長様の頭をかき抱いた。
もう、なにも言わせたくなくて。
弱い部分は、私だけが知っていればそれでいい。
私は子供をあやすように、信長様へ優しく話しかけた。
「怖い夢を、見ているだけですから。」
『…ゆめ?』
「そう。夢。目を瞑って、聞いて。私の心臓の音。
私の髪の毛も血の一滴も、全て貴方のものだと言ったでしょう?
どんな貴方でも、私は貴方を愛しています。」
『…』
「信長様。ここにいる、供に歩む皆も… どんな貴方でも側にいてくれます。」