第11章 たとえば 私が
スパン!
勢い良く襖が開いて、私が仕立てた夜着に身を包んだ信長様が現れた。秀吉さんと家康が必死になって止めている。
『っ、くっ!』
信長様の足元がゆらいで、縁側の柱に手をついた。
『ほら、言わんこっちゃない。まだ熱があるんですから!』
『このくらい何ともない。』
『あぁー、もうっ!』
家康との掛け合いがなんだか懐かしくて、私は部屋に入らずに、それをただ見つめていた。
『?』
懐かしい声がして、赤い瞳に射ぬかれる。
朝の冷たい風が吹き込んで、私の髪が揺らいだ。
『か?』
信長様の手のひらが私の頬に触れようと伸ばされる。
『咲、を部屋にいれて!まだ、駄目だ。また何かあったら!』
焦る家康の声が響く。
『何故だ、家康っ!…ふっ。』
『おっ、御舘様!』
信長様は、柱に手をついたまま、崩れ落ちるように座り込んだ。
『目眩も、熱のせいです。熱で朦朧として幻覚のようなものが見えたり、正常な判断が出来にくくなる。まだ寝ていてください。薬湯飲んで…』
『さぁ、俺の肩に捕まってください。』
『秀吉、薬湯は貴様が飲め。』
『はっ?』
『不味くて飲めん。金平糖が薬だ、用意しろ。』
『あんた、子供じゃないんだから。』
『、ここに来い…』
『駄目だ。咲、早く部屋にいれろ!』
『家康!貴様、斬られたいのか!
秀吉!家康が謀反を起こした、捕らえよ。』
『えっ、御舘様、家康は謀反など起こしておりません。御体を心配して…』
『だから、治ったと申しておる!…秀吉。貴様も謀反か?
光秀、政宗!三成!』
『ほら、熱で朦朧としてるし、まだ幻覚も全て抜けてない。
あっ、政宗さん!すぐを部屋にいれて下さい!』
『なんだ、朝げを運んできたんだが、またややこしいことになってるじゃねぇか。
…、入るぞ。』
眉間に皺を寄せながら、政宗が私を信長様から隠す様に立った。
『!』
信長様が私を呼ぶ。
『、辛くなる。腹の子のためだ。…見るな。』
政宗の背中から見え隠れする信長様は、肩で息をして額から流れる汗の粒が夜着を濡らしていた。
『…』
ゆらりと信長様が柱を支えに立ち上がる。
『早くして、咲!早く!政宗さん!』