第11章 たとえば 私が
翌日。
目が覚めた、私はいつもより軽い体を起こして襖に手をかけた。
冬の終わりとはいえ、朝はひんやりとした空気で、それを吸い込むと体の中が洗い流されるような気がした。
咲が枕元に用意してあった厚手の羽織の裾を、風が遊んでいる。
『起きたのか?』
「秀吉さん。おはよう、朝早いね。」
『あぁ、御舘様のお側についていたからな。桶の水取り替えてきたんだ。』
「信長様は、どう?」
『熱がな、まだ下がらない。家康の見立てだと幻覚症状は解毒出来ただろうって話だが、矢傷を追って戦ったりしてたしな。
体に負担はかかっていただろうって話だ。少しずつだが白湯と家康の薬を飲んでいただいている。』
「そう。…私に出来ること、ない?」
『ないよ。』
背後から家康の声がした。
『あんたは無理せず子を育てることに専念して。無理しないって約束、したでしょ?』
「…あ、うん。」
『家康、あんまり強く言うな。
でもな、。家康の言う通りだ。
御舘様もお前も、俺たちは守ってやれるけど、腹の子はお前しか守れないんだ。御舘様も、俺たちも。城の奴等みんな、御世継ぎを楽しみにしてるんだ。
だから、無理しないでくれ。なっ?』
「わかった。でも、秀吉さんも家康も、無理しないでよ?」
『わーってる。』
秀吉さんは、私の頭をポンと撫でると、信長様の部屋の襖に手をかけた。
『俺も入って、診察します。』
『あぁ、頼む。』
『、あんたは部屋に戻ってて。政宗さんがそろそろ朝げを持ってくるはずだから。食べたら診察するよ。』
「わかった。」
秀吉さんと家康が信長様の部屋に入るのを、ぼうっと見ていると、咲の声がした。
『朝げの前に、御支度をしましょうか。』
頷く私の背中を支えながら、私の部屋の襖を開けた。
その時だった。
ガチャン
ドタン
『お、御舘様!まだ無理です!』
『まだ寝ててくださいって!ほら、薬湯も飲んで!』
『もう、良いと言ったろう!俺を誰だと思っている?』
『信長様ですけど…。まだ熱は下がってませんし、まだふらついてる。体を休ませないと。念のため解毒剤と化膿止めの薬湯を飲んでください!』
『そんな不味いものもう飲まん!
秀吉、政務だ。戦と奇襲の後処理は終わったか?』
『はっ、それはもう既に…』
『秀吉さん!』