第10章 約束
『お母上など畏れ多いですが… 甘えてください。
このようなこと、失礼にあたりますが、信長様や武将様達には言えないこともおありでしょう。
私でよければ、…』
咲の差し出す小指が、涙で歪んで見える。
私もその小指に自分のものを絡ませた。
「ありがとう。ありがと、本当に。約束します。」
そう言うと、咲は優しく微笑んだ。
瞬きをしたら涙が溢れてしまって、手の甲で拭っていると、咲が懐紙を出して拭ってくれた。
夜襲とか 奇襲とか
怖くて
でも、泣いちゃいけないって
張り詰めていたものが
少しだけ緩んで
私は咲の肩に頭を預けて、目を閉じた。
※
愛する人が目指す未来を共に見たいから
それだけで、この時代に残った。
恋人から夫婦になって
きっともうすぐ親になる。
お飾りの妻にはなりたくない、なんて言ったけど
綺麗な景色だけを見せてもらって
守られていることくらい わかってたんだ。
この時代の生活に慣れたなんて
嘘ばっかりで。
支えてくれる人たちがいなければ生きていけない。
だけどね
やっぱり役に立ちたいの。
ほんの少しでも
心の拠り所みたいなのになりたい。
私のこの限られた手のひら一つ
貴方を 皆を その心ごと
抱き締めたい。
それで
少しでも傷が癒えて
みんなの新しい一歩が 未来に繋がる
それが出来たらいい。
そして
何があっても
この子と
貴方と
皆で
歩いていけるって
歩いていきたいって
教えてあげたい。
貴方に。