第10章 約束
『そのあと、崩れ落ちたあの人に馬乗りになって…』
「え、家康が?」
『あぁ。俺の側近に準備させていた眠り薬と解毒剤の薬湯を無理やり飲ませたくて。
でも、無駄にでかい体で鍛え混んでるから、俺だけじゃ押さえられそうになかった。
だから言ったんだ。
あんたと腹の子を、その手で殺したくなければ言うことを聞けって。』
「…うん。」
家康の話を聞きながら、布団を握っていた手に力がこもって震えていた。
それに気付いた咲が、そっと繋ぐように手を添える。
『そしたら、一瞬正気に戻ったんだ。
すぐに薬湯を飲ませた。
だけど、今度は眠ることに抵抗があるのか、また暴れて。あんたが見えてるみたいで、ふらつきながら立ち上がって、押さえようとする俺たちを振り払って、叫ぶんだ。、って。
その姿に苦しげに秀吉さんが、一言謝ったあと、みぞおちに一発。
それで、倒れた。
あんたとは一緒の部屋には置けないから、離したんだ。』
「秀吉さんも皆も、怪我は?」
『擦り傷くらい。あぁ見えて、みんな武将だからね。
ただ…。』
「ただ?」
『秀吉さんの一発で信長様が倒れた時、…駆け寄った三成が…はぁ。
信長様の足先につまづいて、あんたの部屋の襖に手をついて、襖と一緒に倒れこんで、襖に穴を開けた。』
「えっ!…ふふっ。」
『笑い事じゃないよ。
襖と三成が同時に倒れて、三成の右手が襖に突き刺さってさ。みんなそれどころじゃないからほっとかれて。
落ち着いて、あんたをこの部屋に寝かすために来た咲に三成は嫌みを言われてた。』
「へ、へぇ。」
ちらりと、廊下を見ると左右柄の違う襖が見えた。
『まぁ、。なんの毒かは、もうわかんないけど症状に合わせた薬湯を飲ませて、傷の手当てもした。
念のため、光秀さんが仕事で使う眠りを誘う香を焚いてる。だからたぶん、まだ起きないと思う。
正気に戻って、落ち着いたら、一緒に会いに行こう。』
「うん。…大丈夫だよね?」
『誰の薬湯を飲んでるかわかって言ってる?』
「あ、ごめん。」
『秀吉さんが付きっきりだから、大丈夫。
さぁ、話は終わり。あんたの診察をしよう。』
一通り話した家康は、優しく私の頭を撫でてから脈を取り出した。