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暁の契りと桃色の在り処 ー信ー

第9章 夢の続き 


『!、いる?』

広間に運び込まれる負傷者がぱたりと無くなった頃、家康が叫びながら広間へ入ってきた。

「どうしたの?、家康」

『政宗さんと三成の援軍で、どうにか収まったみたい。ただ…』

そう言いかけて、家康が私との視線を外す。

「ただ、…なに?」

『…。』

「家康?」

ただならぬ雰囲気に静まる広間。
愛する人たちに何かあったんだと、私は直感でわかって、立ち上がった。

『信長様が、矢傷を負ったようなんだ。
秀吉さんが庇いきれなかったらしい。』

目の前が真っ暗になる、ってこの事なんだと思う。
あの温もりが無くなってしまう恐怖で体の芯から冷え始めるのがわかった。

「それで、状況は?」

『今、秀吉さんが付き添ってこっちに向かってる。
矢が刺さったのは左肩。背中から狙われたようで…』

状況を話していた家康の背後で慌ただしさが増した。


『家康!家康!いるか!早くぅ!』

『秀吉さん!』

「秀吉さん!、…のぶながっ、さま!」

秀吉さんに右肩を担がれてふらつきながら信長様は、広間の庭先に現れた。
秀吉さんの焦り方が尋常じゃないのが、すぐにわかった。

『秀吉さん、信長様は?』

駆け寄った家康が、鎧を手早く外し始める。
あぁ、早く寝かせてあげなければ。
早く治療をしてあげくちゃ。
そう思うのに、足が動かない。
蒼白い顔をして、汗を流す信長様が、私の立つ縁側に腰を下ろした。
崩れるように私も信長様の横で膝をつく。

『矢傷を受けてからも、変わらない覇気で戦われてたんだが、政宗や三成の援軍で俺達が下がり始めた頃に、馬上でふらつかれてな。
駆け寄ったら、かなり朦朧とされてたんだ。
うわ言の様に、の名を呼んでいた。』

私の名を?

『信長様、抜きますよ!』

秀吉さんの話を聞きながら、家康は左肩の矢に手をかけた。

ブシュッ

抜いたと同時に吹き出した血が、正面にいた家康の右頬と羽織を汚した。
私はその光景を、ただぼうっと見ていた。

『、さらし…。いや、ねぇ!そこの奴、さらしもってこい!広間での治療は無理です。大将ですからね。兵と共にはいさせられない。でも天守までは、無理だ。』

「わたっ、私の部屋を…。」

震える声で自室に運ぼうと話すと、家康が頷いた。






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