第9章 夢の続き
「じゃあ、この大変な時に…。皆が命を懸けて戦っている時に寝てろって言うの?」
『だって、あんたは今…』
「私は信じてる。」
『は?』
「この子が信長様と同じ様に強い子だって。
私は信長様の隣で生きるって決めた時、どんな事も共に乗り越えるってきめたの。今何もしなかったら、この先ずっと後悔する。
…無理はしないよ。約束する。」
『はぁ…。あんたの譲らないそういうところ、忘れてた。』
「家康?」
『咲、無理をさせるな。出来るだけ、座らせて。』
『承知しました。』
「ありがと。皆をお願いね。私、家康を信じてる。」
『…誰に言ってるのさ。』
家康と視線が合う。時が止まったかの様で、周りの音がやけに静かだった。ふっ、と笑う家康のその場に似つかわない程優しい笑顔に、張り詰めた気持ちがゆるんで、一筋涙が流れた。
その後、私も笑い返すと、少しだけ視線を合わせた家康は庭に降りて家臣に指示を出し始めた。
私の少し後ろで控えていた咲が、襷を差し出す。
『女中や針子達は、ご指示通りに。』
「そう、ありがとう。」
『あまり、ご無理は…』
「うん。ねぇ、咲。…大丈夫、だよね?」
『日ノ本一の皆様ですよ? 信じてらっしゃるのでしょう?
先程までの凛々しさはどちらにいかれました?』
「そうだよね!皆を…、信じてる。信じなきゃ。
行こう、咲。」
『はい。』
私は、咲と共に広間へ向かった。
※
広間は、戦場の救護天幕のようだった。
刀傷や矢傷…
祝言の少し前から戦に同行しなくなって、忘れかけていた命の境目。
見知った家臣の顔ぶれが傷だらけで入ってくる。
「大丈夫?さぁ、横になって。誰か付ける?
消毒用の酒をかけて傷を洗って。」
『はっ、はい!』
『様!こちらは!』
「…矢の刺さっている腕の上側を縛ってからお酒をかけて。そして抜けるか確認しなきゃ。救護兵、誰か!」
駆けつけようと何度腰をあげて、その度に何度咲に着物の裾を引かれただろう。
新しい命を身籠る私の目の前で、傷付く命が増えていく。
信長様は、皆は無事なんだろうか?
気付けばお腹に当てていた手は、いつの間にか震えていた。