第9章 夢の続き
身体中が冷えていく。
血の気が引くとは、こういう事なんだろう。
周りの音が聞こえなくなるようだった。
ひとつ息を吐いて、目を瞑る。
『、よく聞け。』
「はい。なんですか、光秀さん。」
『もし、信長様や俺達が戦へ出ている間に何かあれば…』
「なっ!不吉なこと言わないで!」
『黙って聞け。この乱世、何があるかわからん。
もし何があれば、小娘、お前が信長様の代わりだ。』
「えっ…」
『お飾りの奥方にはなりたくないのだろう?
何があっても落ち着け。焦るな。
動揺は瞬く間に伝染する。
いいな、。
全力で、命を懸けて信長様は俺達が守る。
だからお前は、俺達が、信長様が帰る場所を守れ。』
いつかの光秀さんに指南を受けたときに言われた言葉が蘇る。私は目を瞑ったまま家康に声をかけた。
「家康、それで皆は?」
『(随分冷静だな…。)
あぁ。帰城の道中、国境に入る目前で敵襲にあったらしい。秀吉さんと光秀さんの隊が信長様の隊を挟んでいたんだが、光秀さんの隊を先に狙われ、後ろが空いた隙を狙われた。
光秀さんの隊を分断するのがねらいだったらしい。
今、政宗さんと三成が援軍に向かった。
大丈夫だと思うけど、…』
光秀さん、秀吉さん、信長様。みんな。
出立に見送った姿を思い出す。
すうっ、と息を吸って目を開けた。
城内の騒がしさは増している。
「咲。」
『はい。』
「集まった女中さんや針子の皆を、救護を知る者とそうでない者とに分けて。
救護を知る者は、負傷者の手当てに。
そうでない者は、炊き出しを手伝うように配置を。」
『…。』
「咲? 聞いてるの?」
『はっ、はい!』
「じゃあ、急いで。」
『は、はい!』
私は踵を返し広間へ向かう。
呉座を抱えて広間へ走る家臣。運び込まれる負傷者への救護の準備が始まっている。
『…。あんたは、部屋で休んでて。動いたらだめ…』
背後から家康の声が聞こえる。
「家康。私は広間で救護の指揮をするから、政宗と三成くんの後方支援をお願い。」
『あんた、何言ってるの?
今、動いたら、腹の子に!』
「私は、お飾りの奥方じゃない。
皆が戦っているなら、私は帰る場所を守る。」
『だからって、今のあんたがやる事じゃない!』