第9章 夢の続き
ぐっと、唇を噛み締める。
何があったのかわからないけど、傷ついているのは私の大切な安土の人々。
それなら、信長様と共に守らなきゃ。
「広間を開けて!」
『おっ、奥方様!』
『お休みになられているのでは?』
「そんなことはいいから、広間を開けて。
さらしは針子部屋へ!私の名前を出せば場所がわかるものが案内します。
度数の高い消毒液は手前の蔵の中。入って右側の棚にあります。」
『はっ、。すぐに!』
光秀さんに習ったのは、政だけじゃなくて。
城の中のこと、物の場所も、奥方としての城守りの仕方もだった。
「広間にござを敷きます。沢山持ってきて。貴方は汚れて捨ててもいい、出来るだけ大きな布を。
そちらの貴方は、桶に張った綺麗な水を沢山持ってきてください。」
『はっ。』
【広間に負傷者を上げる場合は畳を汚さないように。】
【家康の様に指揮をする側になれ。】
【焦っている姿を見せるな。舐められるな。】
【奥方であるという力を使え。】
光秀さんの声が蘇る。
「誰か!誰か!」
『はっ。』
「針子部屋の彼女たちを集め、厨で炊き出しを始めて。簡単でいい。温かな汁物とおにぎり…握り飯を沢山作るように。政宗や三成くんの兵の分もね。」
『畏まりました!』
身体中の血が沸き立つようで。
あぁ、これがアドレナリンが出てるって事なんだろう。
指示を受けた家臣さんたちが、人を呼び集め動き出す。
その後ろ姿を私は静かに眺めていた。
私なりに神経を研ぎ澄ましていたんだと思う。
私の背後に咲と家康が控えていることがわかった。
「家康。」
『…。指示、ありがと。助かった。
もう休んで。…咲、頼む。』
『はい。さぁ、様。』
「ねぇ、家康。」
『…何?』
「信長様の妻として、この城の奥方として聞くわ。
何があったの?」
後に咲に聞いたけど、この時の私はかなり落ち着いていて、近寄りがたいような、そんな雰囲気があったらしい。
家康も驚いていたようだった。
『…落ち着いて。』
「落ち着いてる。」
『はぁ。』
「家康、…教えて。」
『帰城中の信長様と秀吉さん、光秀さんの隊が襲われたんだ。』