第9章 夢の続き
家康が【絶対安静】だって言ってた。
咲が朝から晩までずっと側にいて
動けるのはトイレくらい。
護衛らしく、吉之助さんと弥七さんまでついてくる。
「はぁ。」
静かに溜め息をついたら、私の小袖に火熨斗をかけていた咲が振り返った。
『どうかされましたか?』
「…なんで動いちゃダメなの?」
『体に負担がかかれば御子に障るからでしょう。』
「切迫流産…」
『えっ?』
「あ、ううん。なんでもない。」
小さく呟いた、友達から聞いた現代の言葉。
それを言うと、自分の今の状態が、ありありとわかってきた。
『信長様、帰ってくるの遅いねぇ。』
「何か連絡があるか聞いてきましょうか。」
『一緒に…』
「…。」
『お願いします。』
「はい。勿論でございます。」
般若みたいな咲の顔が、仏のように変わる。
本当にお母さんみたい。
ふふっ、と独り言のように笑うと、帰ってきたら信長様と赤ちゃんの事とか沢山話そうと思いながら、ほんの少し膨らんだように感じる下腹部を撫でた。
※
咲が状況を確認しに部屋から出てから、どのくらい経っただろう。
聞きに行くだけで、こんなに時間かかるかな?
家康や政宗、三成くん、忙しいのかな?
「トイレ…、いこ。」
私は理由を付けて襖を開けた。
必ず襖と縁側にいる弥七さんや吉之助さんがいない。
ふっと、厠に続く廊下を眺めると、パタパタと慌ただしくする家臣さんや女中さん達が見えた。
(なんだ、帰ってきてるんじゃん。)
除け者になったような寂しい気がして、廊下を歩き出した。
『それで? 状況は?!』
『未だによくわからん!』
『三成殿と政宗殿が出るようだぞ!』
『城守りは家康殿か?』
『…いや、あの一件があるからな。奥方様もいらっしゃる。家康殿の軍と政宗殿の配下の忍集が残られるようだ。』
慌てて、天守に続く薄暗い廊下に身を隠した。
信長様達が帰って来るような喜ばしい迎える雰囲気ではない。
私でもわかる、ピリピリした戦の雰囲気。
何があったのだろうか?
信長様やみんなは、…無事なんだろうか。
『看護兵!早く!負傷者多数!』
(負傷者?)
『家康殿は?!』
『政宗殿と三成殿の後方支援をやっているようだ!』
『薬やさらしはどうすればいい?』
城の中は、いつか信長様について行ったのと同じ戦場だった。