第8章 福を呼ぶのか、闇を呼ぶのか
「ふふふっ、政宗も言ってた。ありがと、家康。」
『あ、…うん。』
家康の頬が少し赤らんだ。戦とは違う柔らかな表情に安心する。
「見て、家康。福寿草が咲いてるの。」
『あぁ、そこは毎年この時期に福寿草が沢山咲く。』
「まだ咲くんだ?」
『うん。』
「信長様と見れるかな?」
『多分ね。ようやく目的地まで着いたようだ。縁起がいい福寿草が咲いたんだ。きっと一揆も手早く沈めて内政を落ち着かせたら戻ってくるんじゃない?
…これ、への文。信長様から。』
「わぁ…。ありがとう。」
『…本当、羨ましいくらい。あんたにそんな顔させることが出来るのは、あの人くらい。この乱世で、これほど幸せな奥方もいないよ?』
「…そう?」
『うん。…文には何て?』
「怪我無く良かったって。あと、政宗と家康と三成くんの言うことを聞いて、静かにしてろって。咲の言うこともちゃんと聞けって書いてある。」
『…あとは?』
「…内緒。家康は何てかいてあったの?」
『え、あぁ。あんたの子守り頼むぞって。』
「子守りって…」
『あの人が帰ってきて来る時に、あんたの体力が落ちてたらなに言われるかわかんないからね。
今日はこれくらいにして、褥に戻って。』
「…えぇ。」
『言うこと聞くんでしょ?』
「うん…。」
私は踵を返して庭先で待つ家康の元へ歩いた。
サァッ
少しだけひんやりした風が背中を押して、おろした後ろ髪を舞い上げた。
『、生姜湯入れたぞ。温まれ。ほら、家康も。』
『政宗さん。すみません。』
『夕げは魚をほぐして、少し柚子をきかせた粥にした。これは、食えるか?』
政宗が指差すと、咲がお盆に乗った小皿には小さく丸めた餅に餡とみたらしが少しずつかかっていた。
「わぁ!ありがとう。縁側に座って食べたい!」
『…冷えるからダメ。』
「えぇ、今日は気分がいいの!」
『でも…』
『こちらをお使いください。…って、おわっ!』
「三成くん!」
『三成、厚手の座布団に厚手の半纏。膝掛け…。前見えなくなるくらい持つなよ。』
「ありがとう。」
三成くんの持ってきてくれた座布団に腰かけて、半纏を着て膝掛けをかけた。
「ふふふ。モコモコしてる。」
『餡、落とさないでよ。』
「いただきます。」