第8章 福を呼ぶのか、闇を呼ぶのか
【信長、秀吉、光秀 遠征先夜営地】
三人が率いる軍は目的地の西国境沿い到着を翌日に控えた場所にて夜営を行っていた。
そこに書簡を携えた光秀の忍が息も絶え絶えにやってきた。
『なっ、夜襲!』
『…やはりか。』
『やはりかって、光秀。落ち着きすぎだ。どうなんだ!被害は?状況は?』
『落ち着け、秀吉。』
『ですが、御館様。』
『家康と三成がいる。あやつら二人はまだ若いが数々の戦を越えてきた。あやつらを信じろ。
状況を報告せよ。』
『はっ。明け方の奇襲に対し、家康様、三成様、万が一にと様の護衛にと家康様が呼んでいた佐助殿が応戦。』
『佐助が来たのか?』
『政宗はどうした?』
『城門を突破され、少数にて激戦となりましたが、政宗様の到着にて形勢逆転。敵陣営を制圧、捕縛しております。』
『被害状況は?』
『はっ、城門の破損と襖や戸の破損程度。重傷者数名はおりますが死者はおりません。三成様が刀傷による軽症です。』
『…は?』
『ご無事でございます。万が一の際は、越後へと家康様が命を出しましたが、そのようなこともなく落ち着いていらっしゃいます。
政宗様のお作りになった食事を召し上がり、休まれていらっしゃいます。』
『万が一の際は越後へ、…か。家康も思いきったな。』
『良くぞ、守った。大義である。』
『家康様より、書簡を預かっております。』
光秀は書簡を受け取り信長に渡す。
目を通した信長は、ふっと口許を緩ませると、光秀、秀吉に文を渡した。
『…政宗の到着にて守備も上がった、心配せず任せよと、西の一揆の制圧と勝利を、と。あやつも大人になったな。』
『…左様でございますな。』
『? 御館様、それは?』
『からの文だ。』
『ほう、から。』
信長は、先ほどまでの厳しい表情を緩ませるとからの文を懐にいれた。
『家康に返書を用意する。よくぞ届けた。光秀、良く休ませ食事を摂らせよ。
予定通りの進軍にて一揆の制圧、内政の調整をし戻るぞ!』
『『はっ。』』
信長は羽織を翻し、天幕を出た。
見上げると、いつかと同じ様に夜空に月が輝いていた。
懐から出した文に目を通す。
『愛している、も。…お前も。』
静かな言葉が夜風に乗って消えていった。