第7章 かぐや姫の故郷
「うん。」
私は広間に敷かれた褥に体を預けた。
湯たんぽ、みたいに温められた石を入れてくれているお陰で、褥はほんわか温かい。
「あ、咲。」
『はい?』
「家康に、信長様に遣いを出すなら、私も文を預けたいって話してくれる?」
『承知しました。信長様が喜ばれることでしょう。』
「…あとね。」
『えぇ、?』
「手、繋いで?」
『…ふふっ。はい、わかりました。ここにおります故、ご安心を。』
咲の優しい笑顔を見ると、また涙が溢れた。
瞬きしたら、ポロポロ流れて枕を濡らしてしまった。
でも、咲の手の温かさが、ゆっくり眠気を連れてきて、私はいつのまにか眠ってしまった。
『安土の…。天下人とも魔王とも言われるような信長様の奥方様が、このようにお優しい方なのは…
神や仏の思し召しなのかもしれませぬな。』
咲が、こんなことを呟きながら髪を撫でてくれたのを、私は知らない。
けれど、夢心地に温かい温もりを感じた気がした。
※
その夜の夕げを、政宗、家康、三成くんと摂り終わってお茶を飲んでいたら、咲が文に使う和紙と筆を用意してくれた。
『咲から、信長様に文を書きたいって聞いたけど?』
「あ、うん。そう。」
『明日、光秀さんの忍に報告書を託す。それに一緒に持っていってもらう事にしたから。
…あんた、文書けるの?』
「あぁ…。あんまり書けないや。名前くらいしか自信ない。」
『え、じゃあどうするのさ?』
「…うーん。」
『俺が書いてやろうか?』
『い、いえ。私が!』
「政宗も三成くんはも、ダメよ!恥ずかしいじゃない!」
『じゃあ、どうするのさ?俺が書こうか?』
「家康もダメ!…あっ!」
『『え?』』
「咲!お願い!」
『わ、私がですか?』
「後で、私が話したことを書いてくれない?」
『よっ、宜しいのでしょうか?』
「適任だよ!咲なら大丈夫。お願い。」
咲がキョロキョロと、広間を見渡している。
『の指名なんだから、いいんじゃない?』
「ほら、家康もいいって!」
『か、かしこまりました。』
『あとで、何て書いたか教えろよ?なっ。』
「まぁさむねぇ!文を書く間は人払いだからね!」
私がそう言うと、3人が久しぶりに笑い始めた。
その笑顔を見ていたらなんだか無性に信長様に会いたくなった。