第6章 嵐の前の
風を切るように佐助くんは、城を出ていった。
『私は事後処理で、まだ残ります。』
『そうだな。安土の守りを固めた方がいい。大名の尋問は、俺と家康だな。』
「あんまり、無理しないでよ?」
『あんたに言われたくない。さぁ、寝て。診察するよ。』
『じゃあ、俺は隊の状況確認と捕らえた奴等の顔でも拝んでくる。吉之助、弥七。ついてこい、お前達も片付けやら手伝え!』
『はっ』
『私も、事後処理と城の状況確認をして参ります。』
政宗は、私の頭をくしゃっと撫で、三成くんはにこやかに笑って広間を出ていった。
家康は、私の隣に座り脈を取り始めた。
咲もまた、私の顔の見える位置に座り直した。
「ふふっ。」
『なに?』
「明け方までは怖かったけど…。佐助くんにも会えて、政宗のご飯をみんなで食べれて嬉しかった。」
『…呑気なんだから。』
「怪我の状況は?重傷はいる?」
『命にかかわるのは、いないかな。ただ、動けそうにない奴は数人いる。今、城下の医者を呼んでる。』
「三成くんは?」
『…あんなの舐めときゃ治る。』
「舐めときゃ…って!
私には、小さな傷も命取りだって怒るくせに。」
『斬られてはいるけど深くないし、傷薬塗ってやったよ。』
「ふふっ、良かった。」
『まぁ、政宗さんが間に合って良かったよ。』
「…そうだね。ここが戦国の世だって、改めて実感する。」
『ふっ、今更? あんた誰と祝言挙げたのさ。』
「そっ、そうだけど。
…私、ちゃんと赤ちゃん産めるかな。」
『えっ?』
「家康やみんなを信じてない訳じゃないよ。みんな良くしてくれて感謝してる。
ただ、やっぱり… 私の時代と勝手が違うからさ。
不安だったりする。」
私の一言に、家康は一息吐くと私の顔を見て言った。
『あんたの時代、出産はどんな風だったの?』
家康の一言は、静まり返った広間に透き通るように響いた。そして咲が、私の方を探るように見ているのがわかった。
ふっと視線を外すと目に入るのは現代では博物館にあるような屏風。花を活けている壺。
かけ布団の上に掛けられた羽織。
愛でるように、今や見慣れた風景を眺めると、私は懐かしい故郷の話を始めた。