第5章 朝焼けよ、三日月を照らせ
私は、自然にお腹を撫でていた。少しだけ鈍い痛みが、心を曇らせる。状況を伝えてくれた家康は、すぐに三成くんと政宗の所に戻っていった。
佐助くんは、私の側を離れずにいてくれている。
『いつ、わかったの?』
「え?」
『妊娠、してること。』
「あ、うーんと。一昨日、家康が来て診察してくれてはっきりわかったかな。」
『そっか…。本当に歴史が変わるかもな。こんな夜襲も、俺たちの世界にはなかった。』
「そう、…だね。大丈夫かな、私達。歴史を変えてしまって…、消えたりしないかな。」
『…様?』
咲が目を見開いて、私の顔を見た。弥七さんと、吉之助さんも私達の話を静かに聞いている。
『もし、この世界にいてはいけない判断があったら…多分もう俺達はいない。織田の奥方が上杉武田の後ろ楯を持つなんて、凄いこと過ぎるから。』
「そっか、…そうだよね。」
『様は… 』
「咲、大丈夫。心配しないで。…私の故郷の話。まだちゃんとは出来ないけど。信長様の許可もいるし。でも、咲にはちゃんと話したいから。」
『は、はい…。』
得体の知れない、想像も出来ないような私と佐助くんの話を、咲は無理やり納得するように頷いてくれた。
※
『…にしても、派手にやられたなぁ。』
腰に両手をあて、政宗は城門付近の様子を眺めた。
捕縛が終わった後の荒れた城内では、互いに手当てをしあったり、重傷者を運んだりする者達に紛れ、政宗の部下達や佐助の仲間が壊れた城門の修復や各所に刺さった弓の回収をしていた。
『政宗様。お怪我は?』
『あぁ、なんともねぇ。三成。お前の腕の傷、家康に診てもってこい。ここは任せろ。
…にしても、あの数だけでよく耐えたな。』
『守りきらなければいけませんでしたからね。
こんな掠り傷、なんともありません。
様を越後になど行かせたくはありませんでしたから。』
『は、越後?…あぁ、逃がすためか?』
『えぇ。万が一の時に、との家康様のご判断です。』
『そうか。結構際どかったな。遅れて済まなかった。』
『いえ、助かりました。』
三成は、政宗に丁寧に頭を下げた。
避けて破けた羽織の布が風でなびいた。