第5章 朝焼けよ、三日月を照らせ
『三成、縁側座れよ。』
家康が薬箱を持ち、広間から庭先に出てきていた。
『いえ、自分で後でやりますから。』
『…お前、包帯巻けないだろ? いいから、座れ。あの子にそんな傷見られたくないだろ?』
『は、はい。そうですね。』
苦笑いをして三成は縁側に座った。
少し離れた隣に家康も腰掛け、消毒や包帯を準備し始める。手慣れた手付きで手当てをしながら、家康は政宗に声を駆けた。
『政宗さん、どこまで知ってるんですか?』
『何を、だ?
今、信長様と秀吉、光秀が出陣している理由と今回の夜襲の可能性、くらいだったぞ? 可能性じゃなくなったがな。』
『じゃあ、…の事は?』
『? あいつに何かあったのか?
今回ので、万が一があったら越後に行かせるつもりだったってのは三成から聞いたが…。』
『…まぁ、俺達が知ってるから政宗さんが知っても大丈夫でしょうから。』
『なんだよ?』
『懐妊しました。あの子。』
家康が政宗を見て、小さな声で呟いた。
三人の間に、風が吹き三様に髪が揺れる。
政宗の口元が弧を描いた。
『…そうか。ようやく、か。それなら越後に行かせようとするのもわかる。俺でも、そうした。よく、守りきったな。』
『越後には、行かせたくはありませんでしたけどね。』
『様は?』
『佐助がついてる。あと、咲に弥七と吉之助も。少し眠れたらいいんだけど。腹も痛むみたいだし。』
『あまり、良くないのか?』
『少しずつですけど、出血してます。腹も痛むみたいだし。食もすすまないです。』
『吐いてるのか?』
『いえ、そこまででは。』
『…わかった。お前達も食ってねぇよな。朝げ、簡単なのを作ってやる。
世継ぎを身籠った事もそれを守りきったことも、喜ばしい事だ。夜は…宴だな。』
『楽天主義の政宗さんらしい。』
『そうだ、信長様への連絡はしたのか?』
『えぇ、光秀さんの忍に任せてます。』
『じゃあ、心配いらねぇな。やっぱり宴だ。』
政宗は、家康の肩をポンと叩くと、家臣に指示を出しながら厨に向かって歩き始めた。
『政宗さん、佐助達の分の朝げも…、頼みます。』
家康のかけた声に、政宗は手を挙げ応えた。