第5章 朝焼けよ、三日月を照らせ
「や、夜襲?」
『政宗さんが、まだ着かないから…
俺と三成の兵しかいないんだ。迎え撃つにも籠城にも、かなり厳しい。呼んでる佐助からも応答がないし。
まずは、あんたの安全を最優先に確保する。
広間に褥を用意した。悪いけど、横抱きにするよ。』
頭がついていかない。
夜襲?
戦ってこと?
言われるがまま、家康に抱かれて天守を降りて広間に向かうと、見たことのない城の雰囲気に鳥肌がたった。
焚かれる松明は広間に面した庭にも、廊下にも、厨にもつけられている。
見慣れた城勤めの家臣さんたちが戦姿で行き来している。女中さん達までも、頭に鉢巻きを巻いて、薙刀を持っている。
「い、いえ、やす? この城が狙われてるの?」
『あぁ、腹立たしいけど。俺と三成しかいないからだろうね。
あんたは広間の褥で休んで。俺と三成、吉之助、弥七、咲で固めるから。
光秀さんの忍が、政宗さんを呼びにいってる。
明日着くはずなら、もう近くまで来てるはずだから。
…それまで、どうにか、もたせるしかない。』
広間には、布団が何十にも重なって用意されていた。
私が寝かせられると、すぐに咲と弥七さん、吉之助さんが来てくれた。
弥七さん、吉之助さんの表情は固い。
『弥七、吉之助。いいか、を命を懸けて守れ。』
『はっ。』
家康が低い声で指示を出す。
三成くんは、縁側で他の家臣に指示を出している。
その光景を見ながら、ぐっと、唇を噛んでいたら、咲が手を繋いでくれた。
自分の鼓動が、耳鳴りのように響き始めた。
※
少しだけ、うとうとし始めていた時だった。
ガタッ!
ガタガタ!
広間の天井裏が音を立てた。
家康と三成くんが、静かに立ち上がって、抜刀したのが見えた。
弥七さん、吉之助さんも膝立ちになって抜刀する。
咲は、私に覆い被さってきた。
ガタン!
天井裏の何かが外れる音がした。
『誰だ。』
三成くんが、聞いたことのない低い声で呼び掛ける。
家康が小刀を持ち変えた。
カタン
天井板が外れる。
言い様のない緊張感で、広間は静まり返った。
シュルッ
咲の体の隙間から、緑の布が見えた。
「…佐助くん?」
『は?』
『え?』
『佐助?』