第5章 朝焼けよ、三日月を照らせ
『、出血は?』
「まだ、少し。」
『そう。痛みは?』
「たまに、かな。」
『出血も量によるけど、酷くなったら…
危ないからね。今は食事以外は寝てた方がいい。
食事は?』
「食べたくない。」
『脱水は避けたいから、必ず白湯か葛湯か、生姜湯とか咲に支度させるから飲んでね。
政宗さんが明日来たら、どうにでもなるだろうけど。』
「政宗、無事に来るかな?雪、大丈夫かな?」
『来てもらわなきゃ困るよ。連絡もないから、大丈夫なんじゃない?』
「政宗がきたら、三成くんが出陣だよね。また三人でお留守番だね。」
『そうだね。…佐助も呼んだよ。』
「え、ほんと?」
『話し相手になるでしょ? さ、少し寝よう。
俺は、三成から近況を聞いてくる。』
「仲良くね?」
『どうだか。』
家康は、三成くんを思い出したのか苦い顔をした。
でも、その後に優しく笑って、私の頭を撫でて、咲を呼びに天守から出て行った。
一人になった。
しん、と静かな天守が、何か良くない始まりを告げるようで怖くなった。
信長様の夜着を抱き締めて顔を埋めた。
『様? 葛湯をお持ちしましたよ。』
咲の声が聞こえて、顔をあげる。
『まぁ、どうされましたか?』
「…静かすぎて」
『身籠られると、まわりに敏感になりますからね。
出来る限り、お側におりますから。』
「うん、ありがとう。私、本当に身籠ってるんだよね。実感なくて、自信ない。」
『最初はお腹も目立ちませんからね。そのようなものです。御子が成長するのと同じように母になりますから、穏やかに過ごしましょう。』
「そっか。考えすぎちゃダメだね。」
温かい葛湯と咲の暖かさで、先ほど迄の恐怖が消えていくのがわかった。
葛湯を飲むと、言われた通り褥に入り、あっという間に眠ってしまった。
※
バタバタと慌ただしい音に目が覚めた。
夜が明けたのかと思ったけれど、天守の板張りの襖から見えたのは、星も月もない暗闇だった。
『!起きてる?』
「家康、どうしたの。今、起きたけど…慌ただしいね?」
『光秀さんの放ってる安土組の忍から知らせが来たんだ。信長様と秀吉さん、光秀さんがいない隙を狙って動き出した奴らがいるって。
もしかしたら、夜襲をかけられるかもしれない。』