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暁の契りと桃色の在り処 ー信ー

第4章 咲の涙


『家康様が安土の国境に入られました!』

家臣の声が私の部屋まで響いたのは、昼手前の頃だった。

『早かったな。』

『秀吉、着き次第、軍議との診察だ。広間にを呼んでおけ。』

『はっ。』

それから、慌ただしく秀吉さんに促され広間に向かう。
咲が心配そうに私の真後ろに控えていた。

秀吉さんと三成くんが、家康を城門に迎えに行っている間、広間は私と信長様だけになった。

家康が来たら診察してもらう、そう決めていたのに、事の成り行きが不安になって、気づけば力一杯手を握りしめていた。
すると、信長様が私の正面に座り直した。
突然の事で驚いていたら、ぐっと胸元に引き寄せられた。

『案ずるな。貴様と俺は一心同体。何があっても、貴様を守る。』

えっ…
まさか、信長様は気付いていたの?

「ごめっ、…ごめん、なさい。
御存知だったのですか?」

『貴様のことなら何でも知っている。』

「はっ、早く…言わなくて。」

『気を回し、言えなかったのだろう。』

信長様は、私の頬を両手で挟みながら、揺るがない瞳で私の心を覗く。

あぁ、敵わない。
この人なら乗り越えられる。

バタバタと近付く足音が迫るなか、私と信長様は、触れるだけの口付けをした。





『お久しぶりです。』

変わらない天の邪鬼な言い方の家康が、信長様に挨拶をして、私の方を向く。

『あんまり、顔色良くないね。食べれてないんだって?』

「でも、今日は楽なんだよ。」

『そう?…先に診察ですか?』

『あぁ、頼む。』

『はい。』

家康が私の正面に座り、脈をとり始める。
広間は光秀さん以外が顔を揃えていて、咲以外は人払いまでされていた。

一通りの症状を話し終わると、ふぅ、と息を吐いて家康は話始めた。

『話をまとめて診断をするならば…。』

『…するならば?』

秀吉さんが、何故か立ち膝になった。

『秀吉、座れ。して、家康。…するならば?』

「家康、。やっぱり…」

『あぁ、。わかってたんだね。

信長様、奥方様、ご懐妊です。』


その時、広間はとても静かだった。
ゆっくり信長様の方を見たら、優しい眼差しが私に向けられていた。

『…私。』

そう言うか言わないかの時。

『ひっく。ふぁっ。』

私の後ろから泣き声が聞こえた。









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