第3章 梅の花 春の隣
『お飾りにはなりたくない、と話されていましたね。』
『と俺は一心同体だ。何事も分かち合い補い支え合うと。あれは、その覚悟がある。』
『…一心同体。』
『そういえば、俺が帰ってきて、軍議があると話したら厨に行ったぞ。』
『まっ、まさか、また昼を?』
『支度すると言っていた。』
『ふっ、軍議は終いだ。俺は行く。』
『天守へ、ですか?』
『…厨だ。』
信長は、そう言うと足早に広間を後にした。
そして、光秀が後を追う。
『お待ちください! またお二人で厨で昼の支度など!』
信長の足がぴたりと止まる。
『昼の支度など?…なんだ?』
『ーっ!い、いえ。』
『嫌なら食わねば良い。』
『たっ、食べます!頂きます!信長様ぁ!』
バタバタと、秀吉の足音が廊下を響き始めた。
※
「ふぅ。」
『様、?』
「あ、ごめん。何?咲。」
『体調が、よろしくないのではないですか?』
「暑くて。ほら、炊きたてのご飯でおにぎり握ったからかなぁ?」
『そんなに…、暑いですか?』
「え、そうでもない? 火照ってるのかなぁ?
少し汗かいちゃった。」
『お召しかえをしては?冷えてしまいます。』
『…そうだね。風邪引いたら、また心配かけちゃうし。おにぎりも握り終わったから、ちょっと戻ろうかな。
あと、頼みます。』
『はっ。』
突然押し掛けて昼の支度を手伝った私を、少し困りながらも受け入れてくれた料理番の家臣が私に頭を下げた。
厨から自室までは少し廊下を歩く。
少しだけ視界がぼやけた私は、廊下の中程で立ち止まった。
『様?』
「…立ち眩みかな。大丈夫。」
『やはり、体調が。もうお休みなさってください。』
「大丈夫!せっかくおにぎりも握ったし、梅の花を信長様やみんなと、見たいから。ねっ。」
『…ですが、何かあってからでは。家康様もいらっしゃらないのですから。』
「…あ。もしかしたら、月のさわりが来る前だからかも。」
『あ、そちらですか?…そろそろでしたか。』
「うん。多分。ちょっとトイレも行ってくるね。」
『と、とい、れ?…厠ですか?』
「あ、そう。」
『かしこまりました。』