第3章 梅の花 春の隣
「そんなに、かしこまらなくても。私は、他の名のある姫とは違うから。」
『…ふふ。ありがとうございます。では、遠慮なく頂戴致します。』
「はい。どうぞ。」
『…ところで、家康様や政宗様がお戻りになられるのですか?』
「うーん。まだ、なにも聞いてないけど。でもそろそろ雪解けでしょ。光秀さんがいないのも、偵察とかなんだろうし。雪解けしたら、政宗も戻ってこれるだろうから、また始まるのかなぁって。」
『では、慌ただしくなりますね。…!』
「賑やかにもなるけどね。…?咲、どうしたの?」
『…ようやく政もわかってきたようだな。。』
「みっ、光秀さん!」
振り返れば、10日ぶりにみる懐かしい意地悪な顔。
「帰ってきてたんですね!」
『あぁ、これから信長様への報告と軍議だ。
その前に、腑抜けたお前の顔を見に来た。
よく、政や世の中を理解しているようじゃないか。
余程、師が良かったとみえる。』
「…師って、光秀さんでしょ。」
『そうだったな。くくっ。』
「これから軍議なら、お昼はここで?」
『あぁ、だろうな。』
「…、よし!」
『様、まさか。』
「咲、おにぎり作ろう。」
『…。』
『お転婆な奥方は大変だろう?』
『…はい、全くでございます。』
「信長様や秀吉さん、三成くんにも、お昼の準備ができたら呼びに行くと伝えてくださいね。」
『…あぁ。わかった。』
「さ、行くよ。咲!」
光秀さんのこもるような笑い声を背中にして、私は苦い顔をした咲を連れて、厨に向かったのだった。