第19章 虹色の明日へ
「今日は頑張ろうね、そう。泣かないでいられるかなぁ?」
『俺が抱くのだ。どうにかなろう。』
「そうですけど。お散歩でも城の庭だけなので。神社までの道のり、びっくりしちゃうんじゃないかと…。」
『泣いたらその時は、その時。どうにかなろう。民に奏信の声を聞かせられる。 …ところで、』
「はい?」
私が奏信から信長様に視線を移す。
すると、真っ直ぐな紅い瞳と、かち合った。
「どうか、しまし…」
ちりッ
痛みを感じたのは、耳の下、顎の骨の近く。
跡を付けられた、とすぐにわかった。
「…っ? みんなに見えてしまいます!」
『だから、いいのだろう?』
口元に弧を描き、悪戯をした少年のように信長様は続けた。
『今日の貴様は、子を産んだとは思えぬ美しさだ。俺の証を付けておかねばな。』
「もう!信長様!」
『秀吉に見つかったら叱られるな。くっくっくっ。』
「わっ、笑い事じゃないですよっ!」
『御館様、準備が整いまし…、?』
『ほら、噂をすれば。』
城門へ続く廊下の先から、晴れ着を着た秀吉さんがやってくる。
『ん?どうした?首が痛いのか? 家康、呼ぶか?』
「ううん、だっ、大丈夫!」
『じゃあ、何でそんなに押さえてる? 見せてみろ。
…あぁっ!』
首辺りを押さえる私の手を秀吉さんが持ち上げて、そしてすぐに眉間にシワを寄せた。
「あのっ、これはっ。いや、ちょっと…」
『…御館様。御戯れが過ぎます。これから城下や神社に行くというのに。』
『俺の証を付けて何が悪い。虫除けだ。』
「はぁ…。隠れ…ないな。仕方ねぇ。」
仕方ないの?
半ば呆れながらも、奏信を抱く信長様と秀吉さんが城門へ向かう後を付いていく。
晴れやかな陽射しが二人の羽織を柔らかく照らしていた。
※
神社詣りの隊列は、馬はないもののちょっとした戦のようだった。
護衛として選抜された家臣の方を先頭に秀吉さん、三成くん。
その後ろに信長様と私。両脇を固めるのは家康と政宗。
後ろに、咲と湖都ちゃん。輝真くん。
弥七さんと吉之助さん。
一番後ろに、光秀さん、久兵衛さんと与次郎さん。
『おい、。それ隠せないのか?』
にやりと笑って自身の首をトントンと叩くのは、政宗だった。