第19章 虹色の明日へ
「いいねぇ。生地選び、お母さんと一緒にしてもらうのは駄目なの?」
『様、共に選びたいお気持ちはわかりますが、輝真様の御母上は恐縮してしまうでしょう。』
『あぁ、咲の言う通りだろう。それに、せっかくなら、母親には知らせずに、そう様の御披露目の脇であいつの御披露目もしてやりたい。
俺も農民の出だからな。なんか…、わかるんだ。
母親の気持ちも。』
秀吉さんの表情は優しくて、昔を懐かしむようだった。
「じゃあ、内緒にして、輝真くんのお母さんをびっくりさせちゃおう! 楽しみだなぁー!」
『そう言うと思った。明日、鍛練が終わって昼が過ぎたら、広間に呉服屋を呼ぶから選んでくれるか? 輝真も連れてくる。』
『その時に奏信様の羽織の生地も選びましょう。』
「うん!」
『さぁさ、お茶が冷めないうちに召し上がってくださいな。
秀吉様もお茶をどうぞ。』
咲が声をかけると、湖都ちゃんが秀吉さんにお茶を出す。
子育てで、少しだけ疲れていた心が暖まるようだった。
そして、これからの楽しみ事に胸が踊りだしていた。
※
それから、二日後には広間に呉服屋さんと反物屋さんが来た。
上座に信長様が座り、奏信を抱いている。
私は奏信の羽織の反物を選んでいた。
「信長様、これどうですか?」
私が見せたのは、黒地から白にグラデーションで変わっていく生地に桜の花弁が刺繍されている。
『好きなものを選べ。貴様に任せる。』
「…じゃあ、これでお願いします。」
『畏まりました。』
丁寧に頭を下げる反物屋さんと呉服屋さんのご主人の背後で、秀吉さんの声がした。
『御館様、よろしいですか?』
『入れ。』
『はっ、輝真を連れて参りました。御披露目に参列する際の羽織や着物の生地選びをに頼んでおります。』
『あぁ。やってやれ。』
「うん、入って!」
静かに秀吉さんが広間に入ると、後ろから輝真くんが入ってきた。
『失礼します。この度はありがとうございます。宜しくお願いします。』
初めて会ってから半年ほどで、彼は見違えるほど大人になっていた。
『暫くぶりだな。輝真。秀吉より、鍛練をかかさずにしていること、聞いているぞ。』
『はっ。ありがとうございます。』
「じゃあ、生地選ぶね。輝真くん、こっち来て?」
『はっ。』